シズコさん
「私は母さんがこんなに呆けてしまうまで、手にさわった事がない。四歳位の時、手をつなごう思って母さんの手に触れた瞬間、チッと舌打ちして私の手をふりはらった。私はその時、二度と手をつながないと決意した。その時から私と母さんのきつい関係が始まった。」「私は正気の母さんを一度も好きじゃなかった。いつも食ってかかり、母はわめいて泣いた。そしてその度に後悔した。母さんがごめんなさいとありがとうを云わなかった様に、私も母さんにごめんなさいありがとうを云わなかった。」「いつから母はあの様な人になったのか私ははっきりわかる。 終戦のどさくさのあと民主主義というなじみのないものの洗礼を受けたからだ。」「母は父が死んでから急に下品になった。 下品なのに見栄っ張りだった。」「七人も子供を産み、三人も失い、それに耐えて四人育て上げあの時代にあって次々と子供を大学に入れていった。」「そして急速に呆け始めた。呆けたら仏様のようになってしまった。」「私は金で母を捨てたのだ。」「私は母さんがお墓に入って、本当にほっとした。」「静かで、懐かしいそちら側に、私も行く。ありがとう。すぐ行くからね。」気がつく時、いつも間に合わない・・・・ 『シズコさん』 佐野 洋子 新潮社 時々コメントをいただくjiqさんのブログから許可をいただいて転記しましたhttp://plaza.rakuten.co.jp/jiqkobo/diary/この文章の「母」を「父」に変えると私にそっくりあてはまるのです親子、兄弟、夫婦、「家族」はテレビのホームドラマのようにみんないい人で幸せ、とはいかないと思いますこういう文章に出会うと少しホッします 荒野よりを応援いただけたらうれしいです ↓ ↓ ↓ ↓写真俳句のランキングにも参加しました↓ ↓ ↓ ↓