書き下ろし連載小説「華蘇芳」13.1月のサラリーマン
書き下ろし連載小説華蘇芳清水 明13.1月のサラリーマンサラリーマンの正月明けは10日を過ぎてからだった。三郎は上司の発注者への挨拶の先導でほぼ一週間を過ごしていた。在社していても腰の落ち着かぬ1週間だった。その間に新年宴会もあり、小菊とのデートも出来なかった。さらに、祝い事が終わると、報告書をまとめる時期となる。打ち合わせとその為の出張、祝日の出勤も余儀なくされていた。一緒の時を持てない。会話が持てない。三郎はその多忙が年度末まで続くであろう事と、そうは言ってもデートが可能な事を知っていた。同じ会社の小菊にも共通する認識と思っていた。しかし、小菊にしてみれば、年金生活でこども達にしか関心を持てない両親の視線に痛みを感じていたから、三郎とのつながりが感じられない期間が束の間であっても孤独を感じざるを得なかった。「年末年始は、結局一日も一緒じゃなかったね。ちょっと厳しいね。」小菊は、やはり古参の久子と一緒の昼食を取っていて言われた。久子は続けた。「伊達さんはスキー場、小菊さんは自宅。話がそれでは進まないわね。」伊達は三郎の名字である。「小菊さんには申し訳ないけど、スキー場とか遊びの場だから、カップルとかグループとか、家族連れにしても結婚とかその後の生活とか、そう云う姿ばかりでしょう。仕事と違って生活感たっぷりでなおかつ楽しい一時。それって伊達さんに小菊さんを思い出させるよね普通。それが、ろくに連絡もなかったのでしょう。年賀の電話とか。」「帰りがけに電話はくれたのよ。」「でも夜で、それから小菊さんの家を訪ねる時間帯でもなかったのでしょう。」「そう云う事ね。」