政権与党というものは、国家機構の中枢を握っているわけだから、実質的には国家において最も強大な権力を握っている組織といってもいいくらいだろう。しかもそれが、長期にわたって権力を独占してきたのだとすれば、その力は非常に強大なものだと言ってもいいだろう。
そのような強大な権力を持った組織が、たとえば教職員組合やその他の官公労のような政治団体ですらない特定の民間組織、あるいは社会保険庁のような、政府自身が責任を持って統括すべき役所やその職員などを、「あきれた …… の実態」 などと、品格もなければ美しくもない陋劣な言葉や描写でもって攻撃するというのは、いったいどういうことなのだろうか。
こういった、特定の者を対象にしたデマゴギーによってことさらに対立をあおったり、社会の不満をその本当の原因からそらすために、一部の者をいけにえにして、そこへ不満を集中させたりというやり方は、明らかにかつてヒトラーが用いた手法と同じである。
世耕某とかいう広報担当の内閣補佐官は、一部でゲッベルスというあだ名で呼ばれているそうだが、彼の愛読書はきっとデマゴギーの効用を説いた 『わが闘争』 なのだろう。
このような責任感覚のなさや破廉恥ぶり、節操のなさも、まさに無頼者集団に特有のもののように思える。政権を攻撃する野党ならばともかく、万年政権与党自身が自ら責任を負うべき役所や公務員を攻撃するということは、誰が見てもたこが自分の足を食っているようなことでしかないだろう。
しかし、それにしても 「なぜ、このような事態になったのでしょうか・・・その責任は!」 などと、年金問題の責任を、わずか1年大臣を務めたに過ぎない菅直人に押し付けるような発言を首相自らが嬉々としてやっているところを見ると、現内閣はその主義主張がどうだこうだと言う以前に、精神年齢があまりに低すぎなのではないかと思う。
「教育再生会議」 の面々も、このようなお馬鹿な首相のもとにいて恥ずかしくないのだろうか。ジャイアンだってブタゴリラだって、こんな愚かな言い訳はしないだろう。それとも、ヤンキー先生は自分の生徒がこんな言い訳をしても、問題なしと認めるのだろうか。
実際、下のような宣伝は、すでに自爆ものでしかないと思うのだが。
自民党 政策パンフレット
・ あなたの年金が消えたわけではありません!!
・ あきれた教育現場の実態
・ あきれた社会保険庁の実態
・ あきれた官公労の実態
かりに、上のパンフレットに書いてあるようなことが、彼らの言うとおりに事実であるとすれば、その責任は長い間政権を担ってきた与党自身にあると考えるのが常識人の考えというものだろう。いったいどこの会社に、「あきれたわが社の実態」 などと言って、世間に大々的に宣伝するような馬鹿な社長がいるだろうか。
そんなことを言えば、世間の嘲笑を浴びるに決まっているだろう。まずは、社長の首をすげかえる必要があると考えるのが一般的な常識というものだ。そんなに公務員や役所の実態があきれたものであるならば、与党はまずそのような 「実態」 を生み出してしまった長年の責任を負い、そのことをわびて野に下るのが筋というものではないか。天に唾するようなことを言って、いったいどういうつもりなのだろう。
そんな簡単なことも分からないとすれば、彼らの論理的思考力はゼロに等しいということだ。どうも、今の与党中枢には、まともな頭脳を持った人間どころか、それはちょっとまずいよと親切に忠告してくれる相手すらいないようだ。すでに、首相と彼の側近グループは 「裸の王様」 状態なのだろうか。実際、彼に比べれば、「サメの脳みそ」 と言われた森元首相のほうが、はるかに常識人であるように見えてくる。
だが、もし彼らがこういった馬鹿げた宣伝を下らなさ承知でやっているのだとすれば、彼らは恐るべきニヒリズムと大衆蔑視的心性の持ち主だということになる。そして、それは 「大衆は小さな嘘よりも大きな嘘に魅力を感じる」 とか 「嘘も100万回繰り返せば真実になる」 などと言った、ちょび髭の元伍長の心性と同じということになるだろう。
結局、小泉を越えるには、小泉以上のデマゴギーを振りまくしかないということなのだろう。やはり、飛び級昇格では総理は務まらないというべきだろうか、それとも「偉大」 な前任者の後を継いだ者の焦りというべきだろうか。
郵政職員を槍玉にした手法が一度成功したからといって、それと同じやり方をまた繰り返すというのは、真珠湾攻撃のやり方をそっくりそのまま繰り返して大失敗した戦前の軍とそっくりである。
丸川珠代も、もう一度考え直したほうがいいと思うのだけどね。