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カテゴリ:陰謀論批判
世の中、なにがいちばん気楽かというと、「素人」 の立場からあれこれと文句を言うことである。野球の試合であれば、ピッチャーがファーボールを連発すれば 「へぼピッチャー、さっさと引っ込めー」 と罵声を浴びせ、バッターが凡退を繰り返せば 「お前なんか、さっさと引退しろー」 などと野次をとばしていればいいのだから。 先般、香川県で起きた、祖母と幼い孫二人が夜間に行方不明になった事件で、自分のブログに気軽なのりで 「犯人は X X だ」 などと書いた若い女性タレントがいた。彼女はけっきょく1年間の 「謹慎処分」 をくらうということになってしまったが、同様のことを匿名のブログや掲示板で書いていた者は、おそらく他にも大勢いたことだろう。 なにか世間を驚かすような事件が起こると、あちらこちらでいっせいに 「犯人当てクイズ」 のような騒ぎが始まる。これは、推理ものの 「二時間ドラマ」 の世界と現実の世界を混同しているようなもので、大宅壮一の言葉をもじれば 「一億総探偵化」 とでも言うべき現象である。 いうまでもなく、このような探偵とは、お湯をかけて5分でできたような 素人探偵 のことである。 こういったことも、テレビを見ながら夫婦や親子であれこれ言っている分には、そう実害はないだろうし、人間というものは自分には直接関係のないことでも、興味をもってあれこれ言いたがるものであるから、仕方がないことでもある。 だが、そうはいっても、やっぱり世の中には、素人が気軽にあれこれと口を出すべきではない領域もある。 どでかい飛行機が高速でビルに突っ込んだらどうなるのか、なんて話がまさにそうである。 そもそも、野球やサッカーの解説ですら素人には務まらないのに、なんでただの素人が、ニュース映像を見たぐらいで、「あのビルの崩れ方はおかしい」、「あの煙の出方はおかしい、やっぱり爆破されたのだ」、「陰謀だ!」 なんてことを言えるのだろうか。そこんとこが、私にはさっぱり分からない。 「生兵法は怪我のもと」 ということわざもあるが、「素人」 がそういう問題に口を出すときは、少なくとも、自分はただの 「素人」 だということぐらい意識しておくべきである。「無知の知」 ではないが、「素人」 であることを自覚した素人は、すでに単なる無責任な素人ではない。 ある特定の問題について、その解決にはいったいどれだけのどのような能力が必要なのかを判断もせずに、また、いま現に自分が持っている能力はどの程度なのか、といったことを客観的に理解もできないままで、生半可なことを言い、 そのあげくに、太田龍ごときが垂れ流すようなお手軽な 「陰謀説」 などに引っかかるような人は、もしもいま、ヒトラーのような悪魔的デマゴーグが現れたなら、「うん、そうだ、そうだ、そのとおりだ」 と、簡単に騙され、その熱烈な支持者になってしまうことだろう。 いささか大仰ではあるが、オルテガの言葉を借りれば、そのような無責任な言動をなし、専門的能力もなく、またその自覚もないままに、「専門家」 と対等の口を利きたがる 「大衆」 こそが、ファシズムの登場を支えたのではなかったのだろうか。 そこに、決定的な違いなどはなにもない。自分は、善意にあふれ正義を信じる真面目な人間だから、そんな 「悪の道」 に迷い込むはずはない、などと思っている者がいるとすれば、そいつはただのお馬鹿さんであり、人間というものを知らない無知なあほうである。 とはいえ、だからこそ今のところ、そういった 「陰謀論」 に引っかかるようなトンマさんたちが、この国ではごくごく少数にすぎないことは、まことに慶賀すべきことなのである。 社会にとって最も危険な 「勢力」 は、しばしば 「既成権力」 や 「支配体制」 に対する 「急進的な批判」 という形をとって現れてくる。そして、そのような勢力の登場を支え、そのような流れに掉さすのは、どんな時代でも、真面目で行動力と正義感にあふれ、ただし自己を疑うことだけは知らない 「善意の人々」 らである。 5.15事件や2.26事件、様々な暗殺事件などを起こして、昭和の軍部独裁への道を開いた民間右翼や青年将校らも、農村の疲弊に無策な政党や政府の腐敗、金権体質などに憤った、自分は正しいと信じていた 「正義の人々」 ではなかったのか。 起きたことを後から振り返って、道を間違えてしまった者を非難するのは簡単だ。しかし、現にいま進行しつつある歴史においては、こっちが 「正しい道」、こっちは 「間違った道」 などという明確な 「方向表示」 などがあるわけではない。 それは、かつて 「連合赤軍事件」 を起こした永田洋子や坂口弘、あるいは 「オウム事件」 を起こした者らを見ても分かることだろう。 いったん抱いた自己の信念にどこまでも忠実であろうとする 「誠実」 な人間こそ、そういった迷路に迷い込みやすいものなのだ。
そのへんの自覚がなく、なんでもかんでも安易に口をはさみたがる傾向がいろんなところに見られるのでは、ということがこの記事の趣旨です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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