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カテゴリ:国際
一昨日、北朝鮮の観光地である金剛山で起きた韓国人女性の射殺事件に関連して、北朝鮮側は、「韓国政府の金剛山観光暫定中断措置については、『われわれに対する挑戦で耐えられない冒涜』とし『南側がきちんと謝罪し、再発防止対策を出すまで、南側観光客は受け入れない』と明らかにした。」 そうである。 観光を計画した事業者も、「パクさんは観光客統制区域に設置されたフェンスを乗り越えて1キロほど北朝鮮側に入った。そのため停止命令を複数回出したがこれに応じず逃走したことから、哨兵が発砲した」 (参照)という北朝鮮からの説明を伝えている。 おそらく、発砲した瞬間の兵士の脳裏には、その結果がもたらす南北関係への影響などは少しも思い浮かばなかったに違いない。いや、そもそもかの国においては、国際関係についてのまともな教育など行われてはいないだろうし、そのような知識も一般国民の間にはきわめて乏しいだろうから、そのような配慮を兵士に求めることなどは、土台無理なことでもあろう。 兵士と国民に対して、国家の命令に対する絶対的服従を常日頃から求めている 「革命国家」 の政府としては、命令どおりの行動を取った兵士はなにより賞賛すべきなのであり、いささかも非難するわけにはいかない。今回の兵士の行動について、政府がわずかでも遺憾の意を表したりすれば、一般の国民や兵士らの間に、国家の命令に唯々諾々と従うことへの疑念を呼び起こすことにもなりかねない。ましてや、かの国は 「偉大なる将軍様」 が率いる世界に冠たる革命国家なのである。そんな面目丸つぶれのようなことを、自国の国民の前でやるわけにはいかないのももっともである。 かつて、ドイツが東西に分かれ、東ドイツ内のベルリンが頑強な壁で隔てられていた時代にも、壁をこえることは命がけのことだった。昨年、旧東ドイツの国家保安省が残した大量の文書の中から、西側に逃げようとするものは子供であっても 「止めるか殺す」 よう求める明確な命令を記載した文書が見つかったというニュースがあった。作成者は分かっていないが、「たとえ越境者が女性や子供を連れていたとしても、武器の使用をためらってはならない。反逆者がよく使ってきた手だ」 と記載されていたとのことである。 ベルリンの壁での最後の犠牲者は、当時20歳だったクリス・グェフロイという青年だったそうだ。この事件が起きたのは1989年2月6日のことだが、ゴルバチョフの 「ペレストロイカ」 を受けて、東ドイツ国内での民主化運動も一気に加速した。9月には同じ東側であったハンガリーによるオーストリアとの国境開放を受けて、大量の市民が西側へ流出する騒ぎとなり、11月には東ドイツ政府による国境開放が発表され、翌年にはついにドイツ統一が実現した。 むろん、今回の事件はこのような例とはまったく異なっている。そもそも日本による植民地支配から、ソビエトによる占領と現在の 「社会主義」 国家成立へと、民主主義というものを一度も経験したことのない北朝鮮のような国家では、国家に対する公然たる抗議の運動が近い将来に生じる可能性はきわめて低いと言わざるを得ない。しかし、融通の利かぬ 「独裁政治」 というもののジレンマに悩まされているのは、いまやかの国の 「将軍様」 自身のようにも思える。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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