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カテゴリ:雑感

 Wikipediaに 「青木まりこ現象」 という項目がある。まだ書き掛けなのだそうで、とても短い記述であるから全文を下に引用する。

 青木まりこ現象(あおきまりこげんしょう)とは、書店(古書店、図書館などを含む)に長時間いると便意を催すという現象。

 椎名誠が編集長を勤める『本の雑誌』第40号(1985年)の読者投書欄に、「杉並区在住の29歳会社員・青木まりこ」というペンネームで投稿された体験談が発端となったため、こう命名された。

 原因については、「本のインクの匂いによる」という説や「書店に入るとトイレに行けないという心理的プレッシャーによる」という説、「好きな本を買えるんだという期待感による」という説など諸説あるが、まだ定説はない。


 下で紹介する笠原敏雄という方によれば、この現象については、『AERA』 の2003年11月号でも、吉岡秀子という人の 「『青木まりこ現象』不滅の掟」 という記事で取り上げられたらしい。

 言われてみると、こういう現象は確かにある。30年以上も前の高校生のころの話だが、当時福岡の中心街を抜けて、市の南部から西部にある高校までえっちらおっちらと毎日通っていた。直通のバスもあったのだが、本数は少なく、たいていはそこで乗り換えを余儀なくされていたのである。

 行きはもちろん道草を食う暇などないし、どこの店もまだ開いてはいないから、前のバスを降りたら、まっすぐ乗り換えの停留所まで急ぐのだが、帰りは時間があるので(帰宅部だったし)、よくそこで降りたあと、天神の繁華街をうろうろしていたのだった。

 当時、天神周辺は古い小さなビルやアーケード街のかわりに、大型商業ビルが次々と開業するなど、再開発が盛んだった時期であり、その北側に 「リーブル天神」 というビルのフロア全体を占める、広々としてありとあらゆる書籍が並んだ大型書店が進出した時期でもあった。

 それで、よく学校の帰りがけに寄り道をしたのだが、やはり書棚を眺めながら、あれこれ本を手に取っているうちに、途中で便意を催し、あわててトイレに駆け込んだ記憶が何度もある。

 そこで、この現象について、もっと詳しく説明したサイトがないかと探してみたら、そのものずばり 「青木まりこ現象」 というサイトを見つけた。筆者は笠原敏雄という方で、「前世を記憶する子どもたち」 「もの思う鳥たち―鳥類の知られざる人間性」 などの翻訳を手がけ、また 「幸福否定の構造」「なぜあの人は懲りないのか困らないのか ― 日常生活の精神病理学」 などの自著もあるらしい。

 どれも読んだことも手に取ったこともないので、詳しいことは分からないが、どうやら精神医学者か心理学者の方らしい。もっとも、氏のサイトでの超常現象に関する記述を読むと、やや、うーんと言いたくなるところもあるのだが、それは今は関係ないので不問にふすことにする。

 さて、笠原氏による 「青木まりこ現象」 の説明はこうである。

 このような実例からすると、“青木まりこ現象”を持つ人が、もし書籍を扱う仕事に就いても便意が起こらないとすれば、この現象は心因性のものであることがかなりの確度で推測できます。この点は、“青木まりこ現象”を持つ人を対象にしたアンケート調査などを通じて、実際に調べることができるでしょう。ついでながらふれておくと、仕事中に、絶えず(あるいは頻繁に)便意や尿意を催す人もいないわけではありませんが、それは、書籍や読書とは無関係の原因によるものです。 (中略)

 では、その症状の原因は何なのでしょうか。まず、結果を見るとはっきりしますが、本を探したいのに、そうした症状が出てしまうと、それが容易には許されないことになります。自分が望んでいる行動を妨げる形で症状が出ているからです。これこそが、この症状の目的なのです。これを理解するには、人間観を根本から変えるしかありません。それはともかく、その症状が心理的原因で出ることは、ごく簡単な“思考実験”で確かめることができます。次に、どのようにするのかを説明しましょう。 (以下省略)


 笠原氏の理論の紹介としては、中途半端になってしまったが、素人としては、下手に要約を試みてもあまり意味はないだろうし、詳細に批評する能力もないので、笠原氏についてはこれだけにしておく。もし興味がある方があれば、リンク先の記事を読んでみて貰いたい。

 ところで、大人になってからは、あまりそういう書店で便意を催したという記憶がない。なにしろ、高校生の頃は小遣いが限られていたから、文庫本一冊を買うのでも、あれにしようか、これにしようか、と、店内をうろうろしたり、ときには書棚の前で買おうか、買うまいかと、小一時間も逡巡することも珍しくはなかった。

 今でも、むろん新刊の、それもあまり売れそうにない単行本を買うとなると、結構値がはるが、少なくとも文庫本を買うのに、どうしようか、やめようかなどと、逡巡する必要はない。たぶんその違いが、自分の場合「青木まりこ現象」が昔ほど発現しなくなった原因の1つではないのかという気がする。

 ちなみに 「すばらしき愚民社会」 「帰ってきたもてない男」 などの著書で知られる小谷野敦氏は、そのブログ 「猫を償うに猫をもってせよ」- 書店の便意 の中でこんなふうに書いている。

 さまざまに、買いたい本があって、しかし全部買うわけに行かないから、どれを選ぼうかという心理的重圧が便意につながるのだと、私は考えている。その証拠に、碌な本が置いていない小さな書店や古書店では、便意を催さない。大きな書店や古書店、特に、普段いきつけでないところへ行くと、激しく催す。


 今のところ、私としては、「自分が望んでいる行動を妨げる」 ためという笠原氏の複雑で逆説的な理論よりも、むしろこの小谷野氏の単純な説明の方に説得力を感じるのだが、はたしてどんなものだろう。






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Last updated  2008.11.27 09:26:54
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