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カテゴリ:童話・詩
「おいらはこって牛」
登り坂はきつい。なぜ、坂をなぜ登るって。 それは伐採された大きな杉の丸太をトラックが積みに来れる道路まで 運び出すためなんだ。 足元の悪い山道で長くて重い大きな杉の丸太を引っ張るのはたいへん なんだ。 人間はおいらが黙って仕事をしていると思っているだろうが不満はたく さんある。 一生懸命に引っ張ろうとしているのにもっともっと引けとダシゴロどん(注) はおいらの尻を竹で引っぱたく。おいらも体調が悪いときがある、 それをダシゴロどんはわかってくれようともしない。 でも、仕事をしたら干草を食べさせてもらえる、そして人間の暮らしに 少しでも役立っていると思っているから必死に杉の丸太を大きな道まで引っ 張っているんだ。今日は何本の杉を引いただろう。もう、くたくただ。 この頃、心配なことが一つある。それは索道というので杉の丸太を麓の 道まで一気に出そうという計画があることをダシゴロどん同士が話して いたからだ。 そうなったら、おいらはどうなる、仕事が無くなってしまう。今まで 一杯こき使われてポイされるのかな。 おいらのことを人間は「こって牛」と言うけれど誰が「こって牛」って 付けたんだ。 もっとかっこいい呼び方で呼んでもらいたいものだ。でも、こって牛と 言われるのも、あと暫くだろう。索道というものが活躍し始めればおいらの 出番はなくなるから。 (注)ダシゴロどんとは牛を使って伐採された樹木(杉や檜など)を運び出す人のこと。 (私が小学校の高学年の頃(昭和30年代の後半)まで、私の生まれ故郷では伐採された樹木を牛に引かせて山から運びだしていました。その頃を思い出して書いたものです) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.03.01 20:51:50
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