ハセツネ(日本山岳耐久レース)初参戦記(2)
(1)より続く★第2関門 月夜見山第2駐車場(42.09km、標高1,147m、午後9時57分)ここまで約9時間、時速5キロペースだと30分強のビハインドだが、想定の内で、まずまず順調に来ている。給水のためにバックからハイドレーションを取り出すともうほとんど残っていない。ここでの給水は1.5リットルまで。これで最後まで持たない場合は第3関門手前の湧水に頼るしかない。気温が低いにも関わらずやたらのどが渇くのは、もちろん登りが続いたことがあるが、もうひとつの原因はエネルギージェルにありそう。ドロっとして甘ったるいジェルはのどの渇きを誘う以上におそらく分解に多量の水分が必要なのではないか。1時間に1袋の量を目安にとり続けてきたが、さすがにもううんざり… おまけにジェルフラスクのキャップがあまかったのか、結構もれ出していてバックのサイドポケットの中がベタベタ。これをふき取り、また腹ごしらえをしたり、ストレッチをしたりするうちに27分も休んでしまった。駐車場の裏から再び始まるトレイルはゾウの背中のようにゆったりとして開けた幅のある尾根道であるが、試走時には非常に滑りやすい感じであった。そこで結局1本だけ持ってきたトレランポールを取り出し、少し探るようにして進んだが、幸い思ったほどではなかった。2つ目の大きなピークである御前山(ごぜんやま、1,406m)への登りはだらだらと続いて、三頭山以上にくたびれる。しかしピークの手前にある惣岳は2年前に死亡事故があったところであり、気が抜けない(ただし現在は当時から一部コースが付け替えられている)。御前山山頂に午後11時35分到着、登り続きなのでやむをえないが、5キロもない道に1時間以上を要している。ちょっとCP2の休息が長かったかなぁと反省しつつも、次第に目標の14時間が遠のいて、弱気の虫が幅を利かせはじめ、「完走できればまぁええやん、初出場やし」モードに入ってくる(何だかこの文章までテンションが切れてきたな…)。それに追い打ちをかけたのが御前山からの下り、三頭山と同様にここもキツいつづれ折りが続き、足にかなり堪える。下り切った大ダワで約50キロ、その先大岳山を越えれば走れる道となるので、余力のある人はこの辺りからペースアップしてくるのか、ここからちょくちょく拾われるようになる。ようやく下りきった大ダワで一息、もう日付が変わっている。目の前にはリタイア者用の救護テントがあったが、中にあまり人はいない様子。もし気象条件がきびしかったら、かなり誘惑に駆られるだろうなぁ。残る大きなピークは大岳山(1,266m)のみ。岩場の登りに加えて、急勾配で、かなりガレている下りが要注意だが、試走時にはそれほど核心部は長い印象ではなかったので、とにかく慎重に行こうと5分ほどの休息で大ダワを後にする。大岳山直下で登りにかかるまでの道は急な登り下りの少ない意外に走れる道であるが、攻める気持ちが後退したのかほとんど走れず。ただ、この辺りから後続に拾われる半面、道端でうずくまっていたり、中には横になっていたりする人の姿をよく見かけるようになってくる。気象条件は悪くないが、やはり気温は低く、止まってしまったら腐海の毒のように冷気が襲ってきて、消耗をさらにひどくしてしまうだろう、もしかすると蟲に食われてしまうかもしれない(ここは「風の谷」か)。それにリタイアするとしても回収バスが待つ最寄りの道路まで1、2時間はかかる山道を自力で下山しなければならず、その場でおねえさんがやさしく肩にタオルをかけてくれてシューズのひもをほどき計測チップをはずしてくれるようなことはありえないきびしいところなのだ(もしそうしてもらえるなら即行リタイアでしょう)。そんな目に遭うくらいならとにかくゆっくりでもゴールに向けて動くに越したことはない。大岳山山頂へはまさによじ登るようにして越えなければならない大岩が続き、力を振り絞って体を持ち上げてゆく。午前1時33分、ようやく山頂に。何だかこれまで登ったことがある北アルプスのどんな高峰よりも達成感があった。コース上では日の出山からの夜景が有名であるが、ここからも東京方面の夜景を望むことができ、休息を兼ねてしばらく鑑賞。さぁ、最後の難所だ。夜のガレ場の下り、慎重に行けば問題はあまりないが、この辺りからペースアップしてくる人が多く、マイペース、マイペースと思いつつも、結構焦らされる。ランスカ、ダブルストックの美女ランナー(暗いのでよくわからなかったが、ご本人のために一応そういうことにしておこう)にパスされたときはちょっとへこんでしまった(別にへこむことはないんだろうけど、ハセツネに出るような正統派ストロングスタイルの山女はランスカみたいなちゃらちゃらしたものなんか多分はかないはず、という単純思い込み)。大岳神社の鳥居でハードな下りは終わるものの、その先は鎖場があり、まだしばらく気は抜けないが、やがて六甲山の魚屋道並みに走りやすい道となり、御岳神社手前で水場に出くわす。第2関門で補給した水も結構減っていたので、ここで2度目の給水。冷たくておいしい。★第3関門 御岳山長尾平(58.00km、標高929m、午前2時37分)第3関門は休まず通過、御岳神社の山門をくぐるとスタート以来の市街地である土産物屋街を通る。これまでも深夜にもかかわらず要所ごとに大会関係者の方々から熱心な声援をいただいていたが、ここでももう午前3時になるというのに、深夜であるため大きな声でこそないものの、しっかり応援をいただいた。日の出山(902m)への丸太階段、段差は大きいが、しっかり登ってゆく。タイム的には目標に届かなかったが、今回は登りのほとんどを遅いながらも休むことなく行くことができたことは事前のトレーニングの成果か。この夏はとにかくトレイルの登りを求めて山を走ってきた。最近は平坦な舗装路がすっかり苦手になって、しばらく走ると足を壊してしまいそうである(ウソウソ)。日の出山、午前3時12分。やっとここまで来た。眼下には西東京の街の夜景が静かに広がっており、ゆっくりしているひまはないが、やはり見とれてしまう。それにしてもホント私はこんな時間に一体何をやっているんですかねぇ…さてお待ちかねの日の出山からの下り、最初は段差の大きいふぞろいの石段、続いて丸太階段であるが、丸太階段は幅こそ広いものの、ステップ部分の土が流れ出て、単なるハードルと化しているところが多い。それではと階段横の斜面を下ろうとするが、何百人も通った後だけに湿った土が踏み固められ、つるつるして滑りやすい。おまけに試走時はこの辺り道がわかりにくく、「美人の湯 つるつる温泉」という一体何を誘っているのか怪しい看板が多かったので(つるつる温泉関係者の皆さん、ごめんなさいm(_ _)m )、コースを表示する小さい立て札と赤色点滅灯をしっかり確認しながら下ってゆくが、この間結構拾われてしまった。予定では日の出山以降の金比羅尾根で遅れを取り返そうと考えていたのにさっぱりであるので、ここで気分を変えようとハンドライトの電池を交換。グッと光量が増したおかげで気分も晴れ、またやる気が出てきて、もうこの先は勝間和代のごとくマイペースに強気で行こうと腹をくくる。もちろん当初考えていたようなスピードは出ないものの、とにかく歩かず走り続ける。拾われたり拾いかえしたりするうちに次第に高度も下がってきて、杉林を抜けたところの橋を渡ると暗いながらも視界が開け、ゴールが近いことを感じる。そしてようやくトレイルが終わると今度はコンクリートの激下りに入るが、ここも休まずに走り、歩いている人をセコく拾ってゆく。やっと市街地に入り、係の方の誘導に従って進んでゆくと、すぐにゴールの明りが見えてくる。まだ暗い早朝なので静かであったが、拍手に迎えられて午前5時5分、71.5kmを無事完走。所要時間16時間5分、完走者全体で大体真ん中辺りの順位であった。★感想そして反省 2月にたまたま見つけた「ハセツネ30K」の追加募集から始まった今回のチャレンジ、おかげで山を走るということがすっかりトレーニングのひとつとして定着し、タイムはさておき何とか完走にこぎつけることができたことは本当にうれしい。 また、7月と9月に2回に分けて行った試走で、奥多摩の山々の自然を知ることができたことも本当にいい経験だった。本戦に出るだけであったなら、ほとんどが夜間であるためコース上の森の豊かさをよく知ることなく終わっていただろうし、そもそもコース全体のイメージを持つことができず、リタイアしていたかもしれない。タイムを振り返って思うことは、まず登りの強化についてはトレーニングの成果はそれなりにあったように思うものの、やはり後半の下りがしっかり走れなかったことが課題と感じる。運動神経も、やわらかい体も、度胸も持ち合わせない、ないないづくしのわが身にとってはつらいところであるが、下りの強化なくしてこれ以上のタイムアップはむずかしい。加えて山は「攻める」という気持ちを持ち続けることが必要と感じる。コース全体をイメージに近いかたちで走るには、登り下り、路面の状況に合わせてしっかり走ってゆく折れない心がやはりポイントですね。これはロードも同じことか。年々エントリーがむずかしくなる本大会であるが、実に奥深いコースであり、次回の参戦を心待ちにしたい。