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koike1970

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2014.05.02
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カテゴリ:書籍その他
 草野心平『わが青春の記』オリオン社 1965年

 言ってみればもっと、縁の遠い人を訪ねたことがある。訪ねたというよりは拉致されたのである。大森駅近くの造花の花の咲いているミルクホール兼ビアホールみたいなところで独り飲んでいると、前から飲んでいた年輩の人に、君はなかなかいいとかなんとかおだてられたあげく、これから自分の家に一緒に行こうということになった。雪がふっていた。雪のなかを二台の人力車に分乗して出掛けたわけだが、どこへ行くのか私には見当もつかない。火の見櫓の近くで前のくるまが止まり、近くの酒屋からビールの箱をつめこみ、またくるまは歩きだした。着いた先はガランと大きいアトリエだった。机の上に「佐藤朝山様」という封書があったので、ああそうか、とわかったが、改めてききも名乗りもせずに、すぐビールにとりかかった。どの位すぎたか、もう夜ふけという時間はとっくに過ぎていた。電話で呼んでくれた人力車に乗って私は佐藤家を辞したが、まだ飲もうと言って朝山氏は雪のなかにとびだして来た。間もなくシーンとなったのは、さすがの酒豪も自分の家にもどったものらしかった。
 (上掲書 p.168)





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Last updated  2014.05.02 14:04:54
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