君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・3
暁はゼミ室の他に図書館やコンピュータ室など、圭が顔を出しそうなところを一通りめぐったが、彼の姿は無かった。しかたなく、大学での自分たちの居場所である院生室に戻った。 院生ゼミごとに部屋が割り振られている。部屋には一人ずつ専用の机が置いてあり、与えられたマシンや自分のマシンを持ち込んで研究ができるようになっている。暁の部屋では、ゼミのリーダーでもある4人の院生と、特別待遇の西原圭が机を並べていた。 院生室に戻ると、ドアには鍵がかかっていた。担当授業の手伝いや論文の締め切り直前でない限り、昼前にこの部屋に人が居ることはあまりない。大抵の院生は夕方ころにのんびり出勤してくる。 鍵を開けて部屋に入ると、一番入り口に近いところにある自分の机に荷物を置き、共同の本棚からゼミ生名簿を取り出した。名簿を机の上に広げ、西原圭の情報を左の指でたどると、右手で携帯に彼の携帯番号と住所を記録した。 「良い口実ができたな。」 登録のボタンを押すと同時に、耳に息がかかる距離で声がした。ビクッとして振り向いたところを、声の主に顎をつかまれ、唇を奪われた。 「ん・・・んん!」 舌が前歯をなぞり出したところで、腕を取って足を払い、相手を薙ぎ倒した。 「院生室(こんなところ)でするな!馬鹿が」 腰をさすりながら起き上がったのは、同じ部屋の住人である市橋衛だった。 「なんでこんな時間にお前がいるんだよ。」 暁は用の無くなった名簿を本棚にしまいながら、相手を一瞥した。 「ん~?あの後朝までうちのチームのやつらとここで飲んでたんだよ。帰るのが面倒で床で寝てたわけ。」 衛は暁の斜め後の自分の席にどかっと座ると、腕を枕にして机に突っ伏した。 「朝までって、お前・・・今日授業のある学生とかいなかっただろうな。」 暁があきれた顔で見ると、衛は顔だけこちらを向けてにやりと笑った。 「まじめちゃんだなぁ、アキラは。プライバシーの侵害だとかって、自分の携帯にメンバーの連絡先登録してないんだろ?」 その言葉にアキラは前髪をフッと吹き上げた。 「まじめでもなんでもない。たかがゼミメンバーだって言うだけでプライベートに踏み込む必要なんて無いと思ってるだけだ。」 衛は右手で右頬を支えて、顔をあげた。 「お前はただ、そう言って自分が、みんなと距離を保ちたいだけなんだろ。」 自分が、のところを強調して言った。 「・・・だったら何だよ」 暁は衛から目を逸らすと、机の上に置いていた鞄を手にとった。 「別に。ただ、そんなアキラ君が携帯に登録した番号が気になってね。」 暁はその言葉が聞こえなかったかのように、鞄を肩からかけると、ヘルメットを掴んで出口に向かった。 「夜、迎えに行くから。」 衛の言葉に振り返ったが、彼は既に机の上に突っ伏していた。 「この部屋喚起しておけよ、酒臭いぞ。」 返事の代わりにそうつぶやくと、つま先を蹴ってかかとを靴に収めながら部屋を出た。君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・4