幸福な王子 手紙4
お空が、真っ暗な朝って知ってる?きっとお日様は、疲れちゃって、お休みしてるんだね。だって、いつもいつもキラキラ輝いているってことは、けっこうつらいものなんだよ。君たちだって、泣きたい時もあれば、怒りたいときもあるでしょう?でもお日様はね、いつもいつも輝いていないといけないんだよ。それは、たまには、雨が降ったり、雪が降ったり、雲がかかったりして、お日様がサボってるみたいな日もあるけれど、雨雲や、雪雲の後ろで、お日様は休まずキラキラ輝いて、真っ暗になるのを、防いでくれているんだからね。でも真っ暗な一日は、お日様は本当におやすみしているよ。たまには違う場所へ行きたいと思うものだし、一日中眠っていたい日もあるし、病院に行って、悪いところを治したりしないといけないでしょう?ゆっくり休養して、また輝き続けるために、力を蓄えておかなくちゃいけないんだ。お月様と会って、たまにはデートもしたいだろうしね。そんな楽しみも必要なんだ。お日様にだって。君たちの暮すこの町のあたりでは、お日様はお休みしないから、いつでもどんな時でも,必ず朝が来れば明るい。お日様はね、南極と北極っていう氷で出来た国ではね、たまにね、そんな風にお休みするもんなんだよ。そこまで書いてみて、こんな話、子供にウケるかなって、考えてみる。お日様がベッドで休んでいる絵とか、病院で診察してもらってるところと、お月様とデートしてるところなんかを、大きな画用紙に描いて見せながらお話すれば、少しは喜んで聞いてくれるかも知れないなんて、都合よく考えたりする。子供は正直だから、つまらなければ、つまらないと言うし、面白ければみんなが引き込まれたような顔をして、真剣に聞いてくれるし、笑ってくれたり、怒ったり、感情を表してくれる。逆につまらないと、走り回ったり、よそ見をしたり、その場からいなくなったりもする。音楽で言えば、子供向けのライブコンサートみたい。施設の担当の小島さんという人はとても理解のある人で、外部との接触を積極的に取り入れて、施設の子供たちの社会性を幼い時期から育てようと熱心だった。だから飛び込みで訪ねたわたしにも、開いた心で親しみを持って接してくれた。そして、面白そうだから是非お願いしますと、快く言ってくれた。小島さんは四十代の女性で、外見的には、林真理子みたいな人。小島さんはお話会の時に、ピアノで効果音をだしてくれたり、きれいなメロディーをつけてくれたりする。会を終えると、事務室で紅茶とケーキを必ず出してくれて、ささやかなお礼をしてくれた。お礼される立場でもないので、遠慮するけれど、是非にと言ってくれるので、いつもおしゃべりをしながら、そのケーキと紅茶を頂いて帰る。自分で創ったはなしなんかよりも、世界には有り余るほどのすばらしい、名作と呼ばれるお話があるので、そんな中から選んで、読んで聞いてもらうこともある。オスカー・ワイルドの「幸せな王子」 きれいで悲しいお話。子供のとき、はじめて読んで泣いてしまったお話だった。悲しくて悲しくて、涙が枯れてしまうのではないかというくらい、泣けてしまう。今こうして話の内容を思い起こすだけでも、しんみりしてしまう。ツバメと王子の深い愛情が涙を誘う。エジプトへはとうとう行かずに、寒い雪の降る日に王子の足もとで息絶えたツバメ。両目までもを失った王子の側にいてあげたかったから。いつかこの話を幼い子達にもわかるように、短くわかりやすくまとめて、お話してあげたい。そう、また誠から手紙が来た。やっぱり南極に行くことになったって。めずらしく一緒に行こうって、誘ってくれたけれど、どうしようかまだ迷っている。仕事で行く誠に、ただついて行くなんて出来ない。個人的な旅行ならいいけれど。しかも公的な機関にお世話になるというのに。私だけ、民間の施設に寝泊りすればいいのだけれど、何故かあまり気が進まなかった。誠が言うように寒いところが嫌いというのもあるのかもしれない。けれどオーロラに、ダイヤモンドダスト、そして極夜。それには心はそそられていた。三月ももう、終わりに近づいている。返事をしないといけない。けれどまだ気持ちを決めることが出来ない私だった。