痕跡
いつでも多くの人で溢れる街。今日も三連休の初日ということで、物凄い人だった。そこで仕事をしていたころ、その街があまり好きではなかった。学生の頃も原宿や銀座に行ってもそこへはほとんど行かなかった。bunkamuraが出来て、なんとなく好きになった気がする。あそこだけはとても落ち着けるからかもしれない。人が少ないし、空間というものがあるせいかもしれない。けれどそこを出て、駅に向かうと信じられないくらいのおびただしい人々とすれ違う。スターバックスカフェとTUTAYAが駅前にオープンしてそこも凄い人だった。渋谷で仕事をしていた頃は仕事が終わると街をぶらつきもせずに一目散に帰った。夜のセンター街は特に好きではなかった。なにしろ人が多すぎるのだ。その人のなかにいるだけで、気が滅入ってしまった。でも今はとても懐かしい街でもある。たまに行くからだと思うけれど、街のもつ熱のようなものを感じる。それを今は冷静に受け止められる。一度だけ渋谷の街が美しく輝いて見えたときがあった。クリスマスの夜だった。その夜だけは渋谷を好きだと思った。寒くて空気が張り詰めてピリッとしていた。その年のクリスマスだけそんな風に違って見えた。それぞれ自分がかかわった街に足跡を残している。それは何年たってもきっと消えはしない。確かにそこにいた時があったという、自分だけの痕跡だけど。場所とか、家とか、建物にも、人の思いは残る。良い思い出だけを残したい。良くない思い出は、出来るだけ、綺麗に流してしまおう。雨に流してもいいし、海に捨てに行ってもいい。自分が去った後に綺麗なものだけを残せればいいなと思う。とても難しいことだけど。