別れの朝
ずっと前に、まだ子供だった頃、別れの朝って曲があったでしょう。覚えてる?あの曲好きだったわ。別れの朝二人は 冷めた紅茶飲み干し さようならのくちずけ わらいながら交わした・・・別れの朝二人は 白ドアを開いて 駅に続く小路を 何も言わず歩いた・・・言わないでなぐさめは 涙を誘うから 触れないでこの指に 心がみだれるから・・・やがて汽車は出て行き 一人残る私は ちぎれるほど手を振る あなたの目をみていた・・・違うかもしれないけれど、こんな詩だったわね。大人の曲って感じがして、ドラマみたいに情景が浮かんで大人ってこんな風に別れるんだ、なんて思ったりしたわ。でもまだ幼いから、お友達のお誕生会にお呼ばれしたりして、前に出て、歌ったの。馬鹿でしょう?全然場違いもいいところだったし、みんなぽかんとしていたわ。真剣にね、別れの朝には紅茶を飲むんだって思ってたのよ。コーヒーじゃなくて、ココアでもない、紅茶なんだって。きっと白いポットにでも入っているんだなって考えるの。さようならするのに笑うんだ、大人はって。くちづけを交わすくらいだからきっと嫌いになって別れるわけじゃないんだでも、じゃなんで別れるの?なんの理由で?不思議だった。でもね、それが大人なんだって思っていたわ。わからない事が、大人のすることだって。白いドアの家に住んでいるのって素敵だと思った。駅に続く小路も。何も言わずに歩くのね。別れの朝は。きっと女の人は長い髪をして、身体にぴったりしたロングコートを着ている。ブーツを履いて。片手をコートのポケットに入れて、片手で男の人の腕に手をかけて・・。男の人は茶色の皮のジャンバーを着て、ジーンズを履いている気がする。髪は少し長いの。二人はきっとお似合いだったと思う。でも別れなければならない何かがあったのね。なぐさめを言うのは男の人みたいだから、男の人の方から別れを切り出したのかもしれない。なのに指に触れようとする。別れの決心をしているのに心をみださないで欲しいと思ったのね、きっと。汽車にのって出て行くのは男の人で、そしてちぎれるほど手を振るあなたの目を見ていた・・。汽車が見えなくなるまで見送ってから、今来た道を一人で帰るのかしら・・。そして白いドアを開けて、部屋で泣くのね、多分。どう思う?そんな別れ方って素敵じゃない?お互いにうらんだり、憎んだりしなで、お互いが言いたいことも言わずに別れていくの。お互いがお互いをすごく気遣っている。それが大人なのね。わかったよ。君の言いたいことは。もう十分だ。それだけ聞けば。別れたいんだろう。笑って別れるよ。わかっていたんだ。君がずっと思っていたことを。ただ言い出せないでいることも。僕も決心がついているから。君を恨んだり、憎んだりしないよ。僕は車で帰るから、汽車には乗らないけれど見送ってくれたら、手ぐらい振るよ。ちぎれそうには振れないけどね。私たちの終わりはそんな誤解が原因でした。ただ私は好きな曲について話しただけだったのに彼はそれを、私が別れたがっていると思ったのです。けれどその後彼はすぐに違う子と付き合いだしたから多分彼はそれを利用しただけだったかもしれません。私が振られたのです。でも後悔はしない。いずれは別れることになったのだと思うからです。そんなことがあっても、あの曲を嫌いにはなれませんでした。素晴らしい曲をありがとう、と言いたいです。歌詞和訳 なかにし礼歌詞を基に創作しました