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テーマ:星空(74)
カテゴリ:過去のエッセイ
「宇宙」(45歳)
北国の秋冬は日暮れが早い。中学生の頃、冬の下校はいつも雪の夜道を一時間近く歩いた。その時の道連れは、満天の星々や月の輝きで、夜空を仰ぎ、そこに様々な思いを遊ばせながら私は成長した。 地球から星の距離の単位は「光年」と知ったのはいつだっただろう。その日から私は、ある不思議な思いに囚われ続けることになった。 一光年とは、秒速30万㎞走る光が一年かかって到達する距離だそうだ。「北極星」でも800光年、地球の所属する銀河系の直径は十万年光年。かすかに見えるアンドロメザ星雲は、何と二百万年光年だというのだ。 以来私は、星空を見上げるたびに頭の中がグチャグチャになるのだった。今私の見ている星のまたたきは、二百万年かかってここに届いたのだ。あるいはもっと遥か昔の輝きかもしれないとすれば、ひょっとするとその星は今は輝いていなかったり、それどころか存在していないことすら考えられる。 「????…」。数えきれない「?」が頭の中を空しく点滅する。そして、表現しようのない不安が、暗黒星雲のように心の中に広がる。 私達は、すでにその実態を変えてしまった幻の宇宙の中に、放り出されているのかもしれない。 しかし、もう一つの幻想も昴のように浮かんでくる。この広大な宇宙には、地球と同じような星も沢山あるはずというから、あの星のどこかに私と同じような少女もいて、こちらを見つめているかもしれないのだ。 現在私の住む場所では、幼い頃のように覆いかぶさるような星の輝きは見えない。それでも時々目を凝らし、昴や白鳥座など優しい星たちを見つめながら、同じような思いに囚われる。 それにしてもこの宇宙に比べて人間の存在の小ささはどうだ。人間の英知と巨額の金をかけて開発したエンデバーだって、ボウフラが太平洋でピョンピョン跳ねているようなものだ。 私の頭は、またグチャグチャになってゆく。 エッセイ教室は、毎月先生の指定する「お題」で600字でまとめるのがルールだった。 書きやすいお題もあるが、書きにくいものは結構悩んだりもした。 しかし、慣れてくるとお題で色々連想して書くことは楽しいことでもあった。 書き写していて、きっと多くの宇宙飛行士やロケットに関わる人たちは、子ども時代に私のような思いを夜空に羽ばたかせていたのかもしれない。 きっとその時、私は頭がグチャグチャになっただけだったが、彼らは明確な人生の目標を北極星のように導かれたのだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024年02月27日 11時12分45秒
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