怪我の功名~ワイン醸造と亜硫酸
何度かこのブログでも書いているが、息子たちはワイン用ブドウを栽培して近くのワイナリーでワインを作っている。(委託醸造ではなく、施設を借りて自分達で仕込んでいる)自分の畑を開墾して6年、やっと自然栽培の土壌ができあがりつつあり、化学肥料や化学農薬は使わず、可能な限り農薬を使わない自然派ワインを目指している。農薬を使わないということは、病気や虫との攻防戦ということであり、手間がかかる上に収量も少なくて、私は何度も心の中で、「こんなことやっていて、本当に食べていけるのか?」と呟いたものである。そんな気持ちの一端は、右の「家族」のカテゴリーの記事で時々書いてきた。(「生き物としての人間」など)おかげさまで、年々収穫できるブドウも増え、木の成長に従って良質なブドウもとれるようになり、何よりも、息子に言わせれば「畑の虫たちの繁殖や、草を含めた土壌環境のバランスがとれてきた」らしくて、最初の頃のような「葡萄にとっての害虫の大発生」などはなくなり、たくさんの昆虫類や雑草がお互いに折り合っている状態になってきつつあるらしい。しかし、ウサギ(葡萄の若木を齧る)、エゾシカ(葡萄の芽が好物)アライグマ、スズメバチ、鳥類(収穫間際の美味しくなった葡萄をムシャムシャ)羆(当然ぶどうは大好き、何より人間を襲う)などなど、畑周辺に出没する動物たちとの攻防戦は相変わらずであるが。動物たちだって、無農薬の葡萄は美味しいに決まっているしね。さて、今日はワインの醸造には欠かせない「亜硫酸塩(酸化防止剤)」が本当のテーマである。ワインの醸造過程には、どうしても酸化防止剤が欠かせないようである。息子のワインにも少量の酸化防止剤は使用していて、ラベルには「補糖や清澄剤などの使用はせず、総亜硫酸使用量は15ppm」などと明記している。これがどのようなことか私も全く知らなかったのだが、息子に言わせれば「ギリギリまで使用を抑えている」らしい。「補糖や清澄剤」も市販されている多くのワインは当然のようで、使っていない方が少ないらしい。それによるワインの違いがいかようなものか、残念ながら私には飲んでみてもよくわからないのだが…。これが、息子には特に「亜硫酸塩」が使われているかどうかは、少し飲んだらすぐわかるそうなのだ。亜硫酸塩を使う時も、誰かに頼んで扱ってもらっているという。アレルギーのように、体が反応するらしい。それを聞いてハッと思い出したことがある。息子たちがまだ小学生、多分長男は3~4年生、次男は1~2年生の頃、家族で「樽前山」を登山したことがある。とても天気が良い日で、洞爺湖も太平洋も一望できて喜びながら、頂上のドーム周辺を歩いていた。ドームには噴火口があり、今でも噴煙が上がっている。きっと、登山口には注意事項が書いてあったはずだし、立ち入り禁止区域もあったのかもしれないが、少なくても私達の歩いている所に立ち入り禁止の札はなかった。(あったら、絶対に行っていないはず)長男と夫は先を歩き、私と幼い次男は少し遅れて歩いていた。私は、風向きのせいか火山性ガスが発する強い硫黄の匂いを感じて、あわてて次男にタオルでマスクをさせた。先に歩いている夫に「ガスに気をつけてー!」と叫んだのだが、時すでに遅く、ガスを吸い込んでしまった長男はしゃがみこんで咳をしていたのだ。帰宅してからも長男の咳は断続的に続き、心配になって病院に行った。診断結果は「喘息」である。それまで喘息の気配など露ほどもなかったので驚いた私は、「一度ガスを吸っただけで喘息になるのですか」と聞いた。医師は淡々と「そういうこともあります」と言った。治るかどうかはわからないし、一生付き合う可能性もあるという。ショックであった。火山性ガスに無防備だった自分達の無知を呪い、「私は次男にすぐにマスクをさせたのに、気付かなかった夫が悪い」と思ったこともある。夜になると苦しそうに咳込む長男の背をさすりながら、これからずっとこんな一生なのかと切なくなったものである。しかし、本当にありがたいことに、激しい喘息発作は少しずつ軽減し、多分1年くらい過ぎたころには、その症状は見られなくなった。やがて年月とともに、そんなことがあったということさえ記憶のかなたとなっていた。それが、「亜硫酸塩には敏感なんだ」という息子の言葉に、ハッと思いだされたのだ。息子にその話をすると、「ああ、そんなことあったね。確かに火山のガスは亜硫酸ガスだし」と納得していた。喘息の症状はなくなったものの、亜硫酸に敏感な体質は残ったようなのだ。そのせいもあって、息子は他のワインの亜硫酸塩の使用程度はわかるようなのだ。「そんな体質は僕だけではなくて、結構いるようだよ。 ワインを飲んで頭が痛くなる人は多いけれど、 きっと自分にワインは合わないと思ってるのだろうし」。あの時火山性ガスを吸い込んだことが、今の息子の仕事の役になっているとするなら、まさに「怪我の功名」と言えるだろう。蛇足であるが、ワインの添加物や産地の表示は他の食品よりは甘くて、「国産ワイン」と言っても、その内容は外国から仕入れた濃縮ブドウジュースがほとんどということもあるらしい。今、ネットでワインの表示について書いてあるものを探したら、下記があった。国産ワインの表示について (日本ワイナリー協会)この自主表示基準でも、添加物の詳細や産地表示は「~を表示することができる」などと書いてあり、つまりは表示しなくても問題ないということだろう。うーん、最近有名レストランの「偽装表示」が非難されているが、ワインについてはちゃんと表示しなくても問題ないということか。これって、問題じゃないのかな?