カテゴリ:第三章 188 ~ 240 話
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数日後の大少林寺内、利江が行くところ後ろから ちょこちょこ と付いて来る白い子トラの 姿があった。 チュンホー (久しぶりの登場) 「利江さん、こんにちは。 あは、子トラちゃん、すっかり利江さんになついてますね♪」 利江 「えぇ。 どこに行くにも着いて来てしまうの。 ゆうすけ君曰く、野生を経験したトラがなつくのは珍しいケースだって。」 チュンホー 「きっと、人柄を敏感に感じているんじゃありませんか? 利江さんの真心が判っているってことです。 お利口さんなんだね。 名前、決めたんですって?」 利江 「そう、『タロ』って付けたの。」 チュンホー 「へぇ、タロちゃんか。 よろしくなタロ♪」 まだ名前にピンと来ていないと見え、利江の後ろで大人しく座ったまま、不思議そうに チュンホーを首をかしげながら、愛らしい大きな瞳で見つめていた。 チュンホー 「じゃ僕は二十三房に向かいますのでこれで。」 利江 「えぇ、またね。」 チュンホーを見送った後、タロに向かってしゃがみ込んで会話をする利江。 利江 「タロちゃん、お利口さんだってさ。」 タロをなでる利江。 タロは気持ちよさそうに目を細め、顔を少し上に向けて撫でられている。 利江 「タロは野生のトラ、ペットじゃないからまた自然に戻らなきゃいけないの。 大丈夫なのかなぁ・・・・」 スッと立ち上がると、 利江 「私はこれからチュウランさんのところに行くの。 一緒にいく?」 ( なぁんで話掛けても通じないわよね (^ ^; ) ナァ~ォ♪ 利江の問いかけに、返事らしき鳴き声をするタロ。 利江 「あら、お返事いい子ね♪」 ( 再び頭を数回撫でてあげる利江 ) そして歩きだした利江の後ろを、ちょこちょこと着いて行くタロであった。 ~ ~ ~ 夕刻、南ちゃんが タロ のために猪を一頭担いで門外の横に歩いてきた。 クンナ 「食事の時間か。」 南ちゃん 「うん、こいつちっこいのに良く食べるんだよ。」 タロを従えて、門番の横に現れる利江。 立ち止まった利江の横に、ちょこんと座るタロ。 クンナ 「タロは野生のトラなのに、全く我々を襲うことをしないんだ。 ペットなら飼い主のしつけがいいと言えるのだが・・・・ まぁペットだと、入山を許可されないけどね。」 利江 「タロは、なんか分っているような気がするの。 悪意があるか、自分の敵かそうでないかって・・・・。不思議なくらい。」 南ちゃん 「よし、タロっ! メシっ!」 その一言に、突然スッと立ち、前足を縮めて前かがみ、後ろ足やや高く腰を据えて 構えるタロ。 ウゥゥゥ・・・・ そう言うと、背負っていた猪を開放する南ちゃん。 猪が逃走を始めると、タロも勢い良く飛び出していったっ! 南ちゃん 「あいつ、回復早いな。 もう走れるなんて・・・・」 利江 「熊の爪が深く刺さっていたわ。 大きく引き裂かれていなかったのが幸いしているのかな。」 ゆうすけ 「いや、打身もあるだろうから、やっぱ治りは早いと思うよ。」 門をくぐって現れたゆうすけ。 ゆうすけ 「それに・・・・、猪とトラ、トラ一匹で捕まえられる相手ではないのだが・・・。 普通は一匹が追いかけ、もう一匹が待ち伏せしてみたいに捕獲することが多い。 駆けっこじゃ負けちゃうからな。 なのに・・・・」 クンナ 「タロは自分一人で追いかけて捕獲できる・・・か。」 みんなの目前に、自分の体の倍はある大きさの猪を咥えて草むらから出てきたタロ。 道端の横でそれを下ろし、ガツガツと食事を始めた。 南ちゃん 「タロは今までも、自分で狩をしてここまで生きてきたんじゃないかな。 捕まえなければ生きていけない。 生きるために、何回も何回も失敗してがんばってきたんだよ。きっとね。」 クンナ 「生きるため。 そして自分を守るため。 野生の掟か。」 ゆうすけ 「人間だってそうだったさ。 原始時代はね。 ところが武器を手にし、種族の長が出来ると、段々[欲]が出て来る。 それが全世界で起きてきた各種の戦国時代の引き金さ。 必要以外の争いをしているのが人間なんだね。 タロから見習うものもあるってことかな。」 南ちゃん 「欲・・・か・・・ 」 ゆうすけ 「どうした。 急に改まって・・・・」 南ちゃん 「先日、殺流拳 Ryuichiに遭った。」 利江 「 !! 」 クンナ / ゆうすけ 「なんだって !! 」 南ちゃん 「タロを救助した日がそうだ。」 ゆうすけ 「で、どうなったんだ・・・?」 南ちゃん 「やつはおいらに伝えに来ただけだった。 大竹林寺が・・・動くと。」 クンナ 「大竹林寺・・・・?」 ゆうすけ 「動くって?」 南ちゃん 「『永きの約を破り表に飛び出す』とだけ言い残していった。」 ゆうすけ 「永きの約、表に飛び出す、どっちもなんのことかおれ達には分んねぇよ。」 南ちゃん ( ・・・・ ) 食事を終えたタロが、満足そうに利江の横まで歩み寄り、ちょこんと隣に座ったのだった。 ~~ ~~ ~~ この日の夜、こういち、ゆうすけ、利江の三人は館長室にその姿があった。 館長 「なんとっ! 約を破り、動き出すじゃとっ!」 こういち 「あぁ。」 ゆうすけ 「あいつの言うことが、どこまで信憑性があるかって問題もあるけど・・・」 こういち 「あいつは、隠し事はいらねぇとまで言ってた。」 利江 「その永きの約って何なんですか?」 横にはタロが大人しくちょこんと座っている。 館長は目を瞑り、しばらく考え事をしている。 そして、重く閉ざされた口が開き始めた。 (二つじゃないわよ) ※ このドラマはフィクションです。登場する内容は、実在する人物、団体等とは一切関係がありません。 また、無断で他への転載、使用等を堅く禁じます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年07月30日 16時24分30秒
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