真夏のジェットコースター
前期終了日の午後、彼からの告白に私は曖昧な返事しか出来なかった。長すぎる学生の夏休み真っ只中、毎日続く暑さにウンザリしながらもこのままでは彼との友情も失いそうで日々悩みが深くなっていた。とりあえず彼の様子を見つつ遊びに行くことにしよう。共通の友人にも声を掛けたがよりによって全員に振られてしまった。仕方ない、覚悟を決めて2人で会おう。電話越しの彼の声は意外と冷静でいつもと何の代わりもないようだった。何も考えずに楽しめることをしよう。そう考えて私から遊園地へ行くことを提案した。どうせならどちらかがよく知ってる場所にしようというので彼が昔から行きなれている豊島園に決定。これで園内での行動に余計な気を使わず済む。各種アトラクションを楽しんでいるものの互いの心はどこか上の空。付き合いが長いだけにその辺りも互いに察してしまう。会話中もちょっとした気まずい間が。かつてこれほど彼に気を使ったことがあったかな?ソレ位に彼とは初対面のときから私は無遠慮に気を使わず気ままに接していた。彼とは沢山の時間を過ごした。両親を除いて一番多くの時間を共有していただろう。趣味や価値観が合うし、何より彼は私の突拍子もない言動も大抵笑って受け入れ楽しんでくれるのだ。彼からの告白を何故私は曖昧にやり過ごしたのだろうか?そんなことを考えながら大人気のジェットコースターの行列に並んでいた。段々と順番が近づく、もう間もなくと言う辺りでしまったと思った。それは2人乗りなのだ。しかもボブスレーとかそんな感じの雰囲気で乗るタイプ。明らかに私は彼の膝の間に座って数分間過ごさなければならない。ある意味、今の2人にとっては残酷な乗り物となっていた。夏の暑い空気、お互いそれぞれの身体はベルトで固定されていても彼の体温を背中から感じられる。我知らず鼓動が早まる。このドキドキはジェットコースターのせいだと思うことに必死な私。彼はどんな心境なのだろう。そんな2人のドキドキと他のみんなのドキドキを乗せて真夏のジェットコースターはいつも通りに大きな歓声を連れて走り抜けた。