永山
永山則夫が処刑される朝、1997年8月1日。隣の棟に収監されていた大道寺将は叫び声を聞いた。前日の夜、読書をしていた永山は夜が明けると自分の命が奪われることを知らずに何を考えていたのだろう。すでに支持者たちもほとんどいなくなり、離婚した妻も遠い。自己を天才と思い続けることでかろうじて保ち続けた生きる気力も萎えていた。永山は暴れて抵抗し、屈強な看守たちに羽交い絞めにされながら刑場に運ばれていく。からだは傷つき、しめつけられた苦痛が永山をつつむ。意識が狂乱した中で、幼いころからの悲しみと兄たちから受けた虐待がぐるぐると現実のように現れてきて、目から涙がぼろぼろと流れつづける。顔に布をかぶせられ、太い縄の感触が首のまわりを化け物のように覆った。後ろ手に手錠をかけられ、両足首を縛られた永山は闇の中でもがく、自分をこんな目に合わせたのは誰だ!おふくろ、兄貴、おめたちはなして俺をこんなふうにして放っておく!俺はなんでこんなところでこんな目に合ってる?くそっ、くそっ、くそっ。床の感触が急になくなる、自分のからだが地球のすべての重力を負っているみたいに闇の底に向かって引っぱられる。熱い、血が、体液が、すべてが悲しみを含んだまま、俺を呑み込んでいく、ちくしょおーーーーーーーーーーーーーーーー