|
カテゴリ:ダンシング・オン・ザ・ウォーター
挙式後、ホテルの廊下を歩きながら会話を交わす。「ごめん・・・な、もう一度、初めからやり直せないのかな、俺達・・・」「自分で突き放しておいて、それはないでしょう?」彼女の言葉に苦笑する。「確かにそれもそうだな。往生際が悪いよな?」「ホントよ!」強い物言いをして、そっぽを向く染姫。
「でも、今日の白雅は素直で好きよ!人って、謝罪は関係が近いほど、素直に言えないじゃない?でも貴方はそれができた。人として成長したのよ!きっとね!」「成長か・・・人間として器が大きくなる為に、こんなにも痛みを味あわなくちゃいけないのかよ!苦しいよな・・・」思わず本音が出てしまう。「しっかりしてよ!これからも経営者としてやっていきたいのなら、他人の家族の事情も、そして身内の過去すらも、全て背負っていかなくてはならないのよ!途中で投げ出すくらいなら、止めた方がいいわ!」 彼女の叱咤。「確かにな」素直に認める。「素直過ぎて気味が悪いわ!いつもの貴方はどうしたの?」「今日はそういう気分なの!」呟いて小さく溜息をつく。このホテルで挙式をした人間の親族は、サービスで泊れる。その為、俺ら夫婦の部屋も用意してあった。疲れた身体を休ませるには、ホテルがちょうどいいよな。俺達は、用意されていたスタンダードの部屋に、カードキーを差し込んで入室した。 「綺麗な部屋ね!それにベットも好みの硬さだわ!ぐっすり眠れそう!」「染姫、見ろよ!ここからの夜景が綺麗だ!」真っ直ぐ窓辺に進んでいた俺は、ベットに腰を下ろした彼女を呼ぶ。立ち上がって歩みを進める様子に、視線を注ぐ。なんだろう?この気持ち。切ないような愛しいような。ただ、はっきり解るのは、今もの凄く、彼女を抱き締めたいっていう想い。側に立った妻を盗み見る。 「なぁ、染姫、今日だけお前を抱いちゃ駄目?」思い切って打ち明けると、困った表情をした。「どうして?貴方は私を捨てたのよ?」「うん・・・そうなんだけど、一番のお気に入りの女だからさ、お前が。それに・・・」「それに?」「どうしても子供が欲しいんだ。産んで欲しいんだよ、染姫。その役割は、お前じゃなきゃ駄目なんだ!」 「勝手な人!貴方なんて嫌いよっ!!自分勝手で、人の心を掻き乱してっ!!私を一番に想ってくれなかったくせにっ!!」「ごめん・・・」「ずるいよっ!白雅っ!!何で今更そんな事言うの?もう私達は離婚するんだよ?」 真っ直ぐ注がれる視線。彼女の非難を聞き、ジンジンとした断続的な痛みが胸に走る!紅緒に殴られた、みぞおちの鈍痛みたいだ!彼女の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。「ホントごめん・・・」もうたまらない気持ちになっちゃって、惹きつけられるように、強引に唇を奪った!どんな非難の言葉も聞くから、衝動を受け止めてくれよっ!!強く願いながら・・・ 涙が頬を流れ落ちるのは何故?白雅の馬鹿っ!!心の中で何度も何度も彼を非難するっ!!未練がましく縋らないでよっ!!優しく奪われるキスは、彼と重ねてきた体の記憶を呼び起こすよう・・・酷い男っ!!何で、こんな男を好きになっちゃったんだろうっ!!ホント私って男を見る目がないよ・・・ 唇を解放して話し掛ける。「シャワー浴びよう。お前を抱くのは今夜だけだから、身勝手だけど許して・・・」そう、今夜だけなんだ。そうしないと、いつまでもずるずると、染姫の気持ちにに縋りついたままになってしまう!もう好きな人間を、これ以上俺の感情で振り回しちゃいけないんだ!涙が頬を伝う妻の顔を見ながら、固く決意をする! バスルームは黒で統一されていて、まるで、自分の部屋の中にいるような錯覚に陥る。大人2人が並んで足を伸ばしても、まだ15センチくらい余裕のある、黒の大きいバスタブ。バスルームの電気を消して、アメニティーに置いてあった、アロマキャンドルをバスルームに持ち込んだ。ゆらゆらと揺れる灯火の中で、バスタブに2人で身を委ねている。白濁した入浴剤はラベンダーの香り。お湯の中では、背中から細いウエストに腕を回していた。「綺麗だな、キャンドルの灯りって。」「そうね・・・」同意をする彼女の細い首筋に何度もキス。その度に小さく甘い吐息が耳に届く。濡れた彼女の髪が、更に官能的な気分を掻き立てるようだ! 「お前から教わったんだよな。蝋燭の灯りだけで過ごすバスタイム」「そうね。でもそれは、シンディ妃の自伝を読んで、よいアイディアだと思って取り入れたの。バスタイムは、一番リラックスしたい時間ですものね」 彼女の言葉に納得。「そういえば、シンディ妃のお子さん、生まれて4ヶ月になったんだよな。赤ちゃんって可愛いんだろうな!」「瞑月皇子が写真送って下さったわね。klavierのベビー服を身につけて、ご夫婦三人で写っているお姿、本当に幸せそうで羨ましかった・・・」「俺らはそうなれないの?」「ならないわ。残念ながら」自分が招いた事とはいえ、ここまではっきり言い切られると、マジ凹む。仕方ないか・・・深く溜息。 「そろそろ出ない?」俺の誘いに彼女はゆっくりと頷いて、立ち上がる素振りを見せる。その背中に頬擦りすると、小さな声で笑い声を上げた。 「香水変えた?DIORのPOISONから?」「変えたよ!彼氏が出来たから」「なるほどね。この香りはBVLGARI BLV NOTTE だろ?メンズの香水だ・・・」首筋に微かに残る香りを、唇を這わせながら堪能する。「NOTTE」夜か・・・いいかもな。メンズの香水でも、さばさばとした女の染姫に似合う気がした。 「ん・・・」全身に注がれる優しいキスは、静かに心を高めていくよう。だけど頭は冷めたままなんて・・・「もっと気持ちを解放していいんだぜ・・・甘い声を聴かせて、染姫」耳元で囁かれる彼の言葉。初めて身体を交わした時を想い出す。あの時はまだ幸せだった。今は、身体は感じているのに、心から行為に溺れられないのは、白雅に想いがないからなの?気持ちが離れている者同士のsexは、どこか哀しくて虚しい。 染姫の身体は、初めての時となんら変わらない筈なのに、俺を全身全霊で拒絶している。繕った感情が、手に取るように解ってしまう。そうさせてしまったのは、紛れもない俺自身。気がつくと、体の下の彼女は涙を流していた。「ごめん・・・やっぱ無理か?」問いに首を左右に振った。 「違う・・・そうじゃない。もっと強かったなら、白雅に想い人がいても、突き放されても耐えられたのに・・・」そこまで言うと、背中に腕を回して声を上げて号泣する染姫。突き立てられる爪が、彼女がずっと堪えていた感情を表していた。「染姫・・・ごめん・・・」柔らかい身体をきつく抱き締めながら、情けなさから瞳に涙が浮かぶ。耳元で何度も謝罪して、その度に首筋に涙が滴り落ちていく。 どれ位の時間が経ったんだろう。子供のように泣いていた染姫は、落ち着きを取り戻して、胸の中で小さな声で謝罪した。「俺が一番悪いんだから、お前が謝る必要なんてないよ。大丈夫か?」濡れた睫毛を、親指で拭ってやりながらの問いに、ゆっくりと頷く。「仕切り直しだよ、白雅。今夜逃したら、もう私は貴方の女じゃなくなるんだからね!」「解ってる。紅緒に抱かれていても、俺を想い出すくらいの行為でお前を愛してやるさ!」優しく綺麗な唇を塞ぐと、彼女から舌を絡める仕草。今夜は何もかも忘れて、身も心もこの女に溺れてしまおう・・・ 最後の一時(別窓) 彼女の残り香へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[ダンシング・オン・ザ・ウォーター] カテゴリの最新記事
|