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カテゴリ:ダンシング・オン・ザ・ウォーター
「朱砂、お前もっと息子に対して、支援するなら素直になれよ~!朱砂達が再婚したのはいいとしても、何で染姫と白雅君は、離婚する話になっているんだ??」暁闇のぼやきに、昼食後のコーヒーを飲みながら付き合う。「ほっとけ!息子とはいえ、おおっぴらに支援できるかっ!!親子間でも馴れ合いは好まん!それにあいつらの離婚は、夫婦間で決めた事なんだから口は出せん!お前も娘を責めるなよ!」
「責められんさ。白雅君に、染姫を嫁に貰ってくれって言ったのは、俺なんだ。全くお前は、影で策略しているかと思えば、フォロー入れてくるし。俺をこっちに呼んだのは、結婚式の為だけじゃないって、解っているんだぞ!今度は何を企んでいるんだ?」「ほう?鈍いお前にしては珍しく、察したか!」「からかうなっ!!何十年お前と付き合っているんだっ!!」Σ(`oдО´;) そう。まだ話していないが、大和韓民国に暁闇を呼んだのは、klavierが提携している工場に、黒の染料の作り方を伝授させる為だった。中国での黒の染料は、環境汚染等で材料の値段が高沸している為、今まで通りの値段で手に入らなくなってしまったのは、周知の通り。 日本でも黒の材料は入手困難、もしくは非常に高価になってしまっている。それが結果的に、彼の工房を次第に追いつめる結果となっていった。 厳の治める大和韓民国は、早くから環境汚染対策にのりだして来た為、まだ上質な樹木染料が手に入る。早い段階で目をつけていた俺は、その材料、ログウッドやウルシの畑を所有している人間と、暁闇に黙って接触を始めていた。 最終的には日本から暁闇の工房を、大和韓民国に移転させるつもりだ。暁闇の染色工房は、固定資産税を払っていくのにも窮するくらい、傾き始めている。俺からの口添えでも、工房の融資先である銀行の頭取も、今回ばかりは融資に首を縦に振らなかった。もう猶予はないんだ! 「なぁ、暁闇。俺からの提案、考えてくれたか?」「大和韓民国への移転の話か?うーん・・・」考え込む暁闇。「お前で、染色工房は5代目になるんだろ?ポシャるよりいいと思うがな」 「まぁ、確かにな。だけどさ、今まで一緒に仕事してきていた、染色職人達はどうなる?俺に、年老いた彼らの首を切れって言うのか?朱砂・・・」「非情になれよっ!!お前も経営者だろ!職人らの心配するならば、お前が彼らの再就職先を探してやればいい。それが職人達に出来る最後のお前の役割だ!このままだと双方共倒れなんだぞ!お前が一番解っているだろうよ!」 「しかし・・・」「迷うのも苦しいのも十分理解できる。俺だってリストラした経験あるからな。だが時には、思い切った決断も必要だって事だ!こっちで再起をはかり立て直せれば、もう一度日本に戻れる可能性だってあるんだ!まずは赤字から、黒字にしなくてはならないだろ?」言葉に、黙ったままじっと耳を傾ける暁闇。 暫しの沈黙の後、口を突いて出た言葉は「解ったよ・・・妻も長男も、お前と同じ事を言っていたんだ。今の状態に拘っていたのは、俺だけだったんだけどな」 深く溜息をつきながら答えた。「滞在している間、工場で十分な量を確保できるようにしろよ!暁闇。日本に戻ってばたばたしていたら、こっちに染料送る暇も無いぞ!」 「工場に染料作りの技術をね・・・それが、ごく内輪での挙式なのにも関わらず、俺を式に呼んだ理由なんだな?」「まっ!そういうことさ!同時に、お前の説得もしようと思っていた。それにこちらで、久しぶりに娘と話をするのもいいだろうよ!klavierに来て以来、愛娘にも逢っていないんだろ?」問い掛けに奴は、冷めたコーヒーを口に運びながら、黙って頷く。 「さて!俺は行くぞ!そろそろホテルを出ないと、飛行機に間に合わん!乗り遅れたら、エリザにどやされる!」イスから立ち上がり背中を向けると、暁闇も立ち上がったのが音で解った。「朱砂っ!!」 「何だ?」「お前には助けられてばかりだな・・・本当にすまない・・・」 「気にするな。力ある者は、それを自身の私利私欲に使ってはならない。困っている人間を助けるのは当たり前だろ。お前は俺の幼なじみであり、親友なんだから」「朱砂・・・」 「じゃあな!klavierに樹木染料は送ってある。あいつらは何も知らないから、お前から事情を説明してやれ!」口の端に、少しばかり笑みを浮かべて、その場からレジにゆっくりと歩みを進めた。「お前の苦しむ姿なんて、金輪際見たくないんだよ、暁闇」小さく呟きながら・・・ 朱砂に教えられた住所を頼りに、娘婿の経営するklavierに向かう。港町に近い、ブティックが数十件立ち並ぶ繁華街。高級ブランドの店も数多く立ち並んでいる!「こりゃ激戦区だな!」素直な感想が口をついて出てしまう!京都じゃ見たこともないような、華やかな街並みだ! 久しく華やかな街に、繰り出していなかった俺にとって、大和韓民国での繁華街が眩しく感じられる。BARNEYS NEWYORKが聳え立っている前に店がある為、klavierはすぐに解った。白を基調にした明るい店内、それはきっと、彼の名前に由来するのだろう。 ガラス製のドアに、大理石で作られている持ち手。彼らしい拘りだ!ゆっくりとドアを押し店内に入ると、従業員が静かな声で「いらっしゃいませ」と会釈をする。「あ・・・すみません、瀬名川は、染姫はいませんか?」俺の言葉にきょとんとした表情をする、若い青年従業員。 「確かに瀬名川は、私どもの店で働いておりますが・・・」困惑した表情を浮かべる青年。何と言い出すか迷っていたら、背中から声を掛けられた! 「お義父さんっ!よく此処が分かりましたね!迷いませんでしたか?」「白雅君!」ほっとして胸を撫で下ろす。ブティックなんて、入った経験のない俺にとっては、この空間がいやに落ち着かない!まさに彼は地獄に仏って感じだ! 「紅緒、この方は染姫のお父様だ!染姫に、スタッフルームに来るように伝えてきて!」彼の声に、少し慌てたように返事をした後「初めまして!少々お待ち下さい!」と挨拶をし、店の奥に、軽い駆け足で向かう青年を見送った。 「結婚式ではあまり会話出来なかったね、元気だったかい?白雅君!」「えぇ、お陰様で!お義父さんも、お元気そうで何よりです!どうぞこちらへ!」 店の奥のスタッフルームに通されて、ソファーを勧められ腰掛けた。「大したもんだね!その若さで経営者とは。さすが朱砂の息子だ!仕事、忙しいのかい?」「ショーが終わったばかりで、今は少し落ち着いているところです」 「そう・・・」他愛もない会話。一体、彼と娘の間に何があったのか、問い掛けられない想いが、胸を締め付けるようだ。 トントンノックの音。名前を名乗る声が、ドア向こうから聞こえる。どうやら娘が来たらしい。「失礼します」入室してきた娘、暫く逢わない間に、更に大人びた表情になっていた。「座って!」白雅君の勧めに黙ったまま、こくりと頷き、彼の隣のソファーに腰を下ろす。 「久しぶりだな、染姫。元気だったか?」「えぇ!お父さんこそ!でも少し痩せたわね。ねぇ、klavierに樹木染料が届いていたけれど、あれはお父さんが送ったの?」「俺もそれが気になっていたんです!あれは一体?」 「本当に君達は、朱砂から何も聞いていないんだ・・・」俺の呟きに、2人は顔を見合わせて困った表情をした。「朱砂から黒の染料の作り方、klavierの提携工場に教えろと言われた。その為に奴は、俺をこの国に呼んだそうだ」「工場に染料作りを?」驚いたように、両目を大きく見開く白雅君と娘。「何から話せばいいかな・・・ちょっと長くなっちゃうよ!それでもいいかい?」2人は身体を乗り出し、一言も漏らさぬよう聞く耳を立て始めた。 親父の過去へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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