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空想世界と少しの現実

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緋褪色

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Sarraute(サロート)さんがパリに帰って二週間後、僕はJolivet(ジョリウ゛ェ)さんと空港のロビーにいた。自分の夢に向かっての第一歩が、此処から始まるんだ!多くの人々が行き来するこの空港には、きっと様々な想いが交差しているんだろう!ロビーに設置された、グレーのチェアーに腰掛けながら、行き交う人を見つめて想う。

姉さんが仕事を抜け出して、僕の見送りに来てくれると言う。Jolivetさんと一緒とはいえ、やはり慣れ親しんだ国から、誰からの見送りもなく、出発するのは少し寂しかった。素直に彼女の申し出を受け、待ち合わせのロビーで到着を待っているところだった。


「浄瑠璃!」背中から聞こえる、聞き覚えのある優しい声に振り返ると、そこには待ち人の姿があった。「姉さん!」チェアーから立ち上がって彼女と向き合う!「久しぶり!元気そうね!」「姉さんこそ!ついに出発の日が来ちゃったよ!今、凄くドキドキしてるんだ!」自然に笑顔が浮かぶ僕に、姉は優しく微笑み掛けてくれる。

姉、弟

「夢への実現の、第一歩に立ち合えるなんて光栄よ!貴方ならきっと夢を叶えられるわ!浄瑠璃!」力強く励ましてくれる言葉に、心がじんわりと温かくなっていくよう!「ありがとう!とことんまで頑張ってみるよ!あ、そうそう!姉さん、この方はコンシェルジュのJolivetさん。今回渡仏にあたって、たくさんお世話になった方なんだよ!」

彼が立ち上がるタイミングを見計らって、傍らのJolivetさんを姉に紹介すると、握手をしながら姉は日本語で、Jolivetさんはフランス語で挨拶をする。
「美しいお姉さんですね!浄瑠璃、まだ時間はあります。積もる話もあるでしょう?2人で、お茶でも飲んできたらいかがですか!」

「でも・・・Jolivetさんは?」一人になってしまうと言おうとする、僕の言葉を遮る彼!「浄瑠璃!プライベートなのですから、あまり気を使い過ぎるものではありません。私は、一人でゆっくり過ごす時間も大切にしたいのです。それに目上から勧められたなら、素直に応じたほうがいいですよ!そうですね、一時間後に、出発ゲート前でおち合いましょうか!」

胸ポケットに忍ばせていた、懐中時計を取り出して時間を確認した後、彼は静かに話す。「解りました。じゃあ、また後ほど」言葉に頷き、その場から足早に離れるJolivetさん。自身の主張をはっきりと言う彼らしい。日本人みたいな曖昧さがないのは、やはり彼がフランス人だからだろうか?背中を見つめて思う。

「フランス語が話せるなんて凄いわね!浄瑠璃!」「まだ、簡単な日常会話くらいしか喋れないんだけどね!」姉を伴ってフロアを歩き始める。「スタバがあるね、あそこでどう?」提案にこくりと頷いた。

空港の滑走路の一部が見える窓際席に、姉と2人で肩を並べて腰掛ける。どうやら好みが似ているらしく、選んだのは、ミルクがたっぷり入った冷たいカフェ・オ・レ。どちらからともなく話し始めて、先日Sarrauteさんとデート中、白雅に逢った話になると、彼女はさも可笑しそうに笑う!

「その時の白雅の顔が浮かぶようだわ!仏長面で、貴方を見つめていたんでしょうね!結婚式でSarrauteさんに会った時、露骨に嫌な顔していたのよ!(>д<;) ホント、感情の抑えられない子供なんだから!」

「白雅らしいよね。喜怒哀楽がはっきりしていて。そういう人は嫌いじゃないよ」「私も嫌いじゃないけど、見てるとはらはらしちゃう!もうちょっと大人にならないとね!」静かに話す。「ねぇ、白雅が言ってたけど離婚って・・・本当なの?」「本当よ!後は離婚届を出すだけ!お盆明けには市役所に提出してくるわ!」「姉さん・・・ごめん、僕のせいだね」項垂れると背中を擦りながら、首を左右に振って否定の仕草。

「それは違うわ!貴方のせいじゃないのよ!確かに白雅は、今でも、浄瑠璃の事が一番好きなままだけど、原因は朱砂との過去を、黙っていた私にあるのだから。それに、私にも恋人出来たし、もう綺麗さっぱり、全てリセットよ!」(´∀`*))ァ'`,、 明るく笑うその表情には、清清しさすら感じさせる! 

「結婚してから、姉さん強くなったね!なんだか、義母のエリザさんに似てきたんじゃない?」
「あら!エリザさんに似てきたなんて、最大級の褒め言葉よ!私、ああいうカッコいい、強い女性になってやるんだから!」((藁´∀`)) とても嬉しそうに、声を上げて彼女は笑った。

楽しい時間はあっという間に過ぎて、約束の15分前に搭乗ゲートの前に立つ。最後の僅かな姉弟の時間を、先に来ていたJolivetさんは、そっと影から見守ってくれている。「そう・・・Sarrauteさんご夫妻の為に、貴方も大変な役割を担ったものね。白雅は知らないんでしょ?」「うん。向こうでの生活が落ち着いたら、打ち明けようと思ってる。手紙書いたら、白雅に渡してくれる?」

「もちろんよ!浄瑠璃。どうかくれぐれも身体に気をつけて!離れてしまうけど、私達はどんな時でも、心は繋がっているって信じるよ!これはね、私からの餞別。苦しくなった時開いてみて!きっとまた頑張ろうって元気が出るから!」

手渡されたのは丁寧に包装された、B5サイズほどの分厚い物。何だろう?結構重い。「ありがとう!姉さん!」込み上げる感情を堪えて、身体をそっと抱き寄せ別れの抱擁を交わす。

姉、弟

「浄瑠璃、そろそろ出発の時間です」背中から聞こえるJolivetさんの声に、無言のまま頷く。「姉さん、行ってくる。元気でね」身体をそっと解放すると、大きな瞳には、溢れそうなくらい涙が浮かんでいた。「駄目ね、別れって苦手だわ!一生逢えないわけじゃないのに、悲しくなっちゃう・・・」取り出したハンカチで、目頭を拭う姿に薄く微笑む僕。

「そうだよ、また逢えるんだ!だから笑って見送って!姉さんは笑顔が一番似合うんだから!じゃあ、またね!」両手で、彼女の小さな手を包み込みながら別れを告げた。見つめる、泣き笑いの表情が心を締め付ける!
「行ってらっしゃい・・・」

無言で頷いて手を離し、彼女に背を向けた。これ以上顔を見ていたら、必死で抑えていた感情が溢れそうになる。唇を固く噛み締めて、Jolivetさんの隣に肩を並べると、彼は僕の背中を軽く叩く仕草。どうやら慰めているつもりらしかった。項垂れたまま、彼と共に、ゆっくりと搭乗ゲートに向かって歩き出した。

「浄瑠璃っ!!」
「!!」背中に投げかけられる、姉の声に思わず振り返るっ!!「負けるな!浄瑠璃っ!!ファイト!ファイトっ!!」
旅立ち

周りを憚る事無く、僕に向かって、大きく両手を振りながらエールを送る姉!必死に涙を堪えて、手を振る様子に胸が熱くなるっ!!軽く右手を上げてすぐに目を背けた。前を向く頬に、熱い涙が流れ落ちていく。「泣かないって決めてたのに・・・駄目じゃんか・・・」小さく呟いて・・・

想い人からの手紙へ





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Last updated  2008/08/12 03:12:24 PM
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