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カテゴリ:ダンシング・オン・ザ・ウォーター
浄瑠璃がフランスに、旅立って二ヶ月が過ぎた。klavierの皆は相変わらず元気!季節は秋めいてきたとはいえ、日によってはまだ暑い時もある。白雅と紅緒君は、互いにライバル心剥き出しで、積極的に意見を出し合う!以前の紅緒君からは、考えられないほどの変化を見せていた。本人達は真剣そのものでも、傍から見れば笑ってしまうくらい!今日もその勢いに押されたままで、皆は口を挟めないでいた。
「だから!白雅さん!女性のヘアアクセは小さい、可愛い、尚且つ綺麗って決まっているんですよっ!!今時グラサンなんて頭に付けませんってっ!!」 「お前こそ、何にも解っていないだろうがっ!!セレブにとって、グラサンは必需品なんだぞっ!!偏光グラスを、もっとおしゃれにして売り出せば、ぜってー売れるってっ!!へアアクセは今までだって出していたのに、ヒット商品は出てないんだぞっ!あまり利益にもならないから、商品数カットしたいくらいなんだからなっ!!」 「あの・・・2人とも、積極的な意見を出すのはいいんですけど、もうちょっと、周りの意見も聞いてくれませんかねぇ。(´ω`ι)これじゃ、口挟む余裕もありゃしませんよっ!!」(>д<;) 主任に昇進した黄麻君がぼやく。「ほーんと!もう2人ともいい加減にして下さい!黄麻君!もうお昼よ!一度解散しましょう!この2人に付き合っていたら、お昼食べられないわ!!」付けていたティアラを作業台の上に置き、さっさと工房から出て行く私。 「そうそう!白雅、ランチ一緒に食べない?」振り返り、ドアに手を掛けたまま彼に声を掛けると、きょとんとした表情で見つめ返す。「えっ?俺か?何でまた??」「用件があるからに決まっているでしょ!それ以上でも以下でもないの!行くわよ!もたもたしていたら、パスタランチ食べ損ねちゃうっ!!」彼の返事も聞かず、財布を取りにスタッフルームへ歩みを進める。 背中から白雅が、慌てて駆け寄ってくる足音が聞こえてきた!「ちょっ!ちょっと待てよっ!!染姫っ!!」「待てないっ!!今日の日替わり何だろう?大好きなトマトパスタだといいな~!ランチが売り切れちゃったら、白雅のおごりだからね!」 「おいおい、お前から誘っておいてなんじゃそりゃっ!!しっかりしてらぁ~!」(>д<;) スタッフルームに入り、ロッカーからバックを取り出す私を見つめて呟く白雅。彼の本音なんでしょう!言い方に可笑しくなって思わず噴出す!離婚してからの私達は、時折ランチやディナーを共にしながら、仕事の事やそして個人的な相談をも、乗ってもらったりしていた。 皆は、この関係を受け入れてくれていた。今の白雅と自分の関係、嫌いじゃない。 まぁ、彼氏である紅緒君は、まだ複雑そうだけど。きっと、いずれかは解ってくれるって信じてる。 誘ったのはklavierの近くに、最近オープンしたばかりの小さなパスタ屋さん『Bonne chance』新鮮な素材を使った生パスタなのに、適度なボリュームと値段の安さで、行列が出来るほどの人気店。どうやら予約限定セレブご用達の店、『城邑』(じょうゆう)のオーナーと一緒みたいだった。 仕事面では面白い事に、私達が離婚してからの方が、klavierの業績も伸びて経営も順調!黒の染料を提携工場内で作れるようになった事も、余分な流通コストが減った為、月間の業績を上げる結果となっていた。 「並ばずに入れたなんてラッキーじゃん!それに珍しいな?染姫からランチ誘ってくるなんて!」2人掛けのテーブルに、対面に腰掛け話す白雅。「今日はね、報告したい事があったから。早速本題よ!」答えながら、バックから取り出したのは母子手帳。見た瞬間、固まる白雅の表情! 「染姫・・・これって・・・」「そっ!貴方の希望通り、赤ちゃん授かったみたいね!ご心配なく!正真正銘貴方の子よ!御両親の結婚式以来、紅緒君とは一度もしていないから」それは紛れもなく本当だ。紅緒君にはちゃんと事情を説明し、子供を産むまでの間、一切の行為を拒絶すると伝えていた。白雅が興味深そうに、母子手帳をパラパラとめくっている間、紅緒君に伝えた時の光景を想い返す。 「もう産むって決めたの。身勝手でごめん。無理して私に付き合う必要ないんだよ!裏切り者と、拒絶してくれて構わないんだから・・・」 俯き加減で困惑した顔は、すぐに深い決意を秘めた表情に変わった。「どんな貴女でも受け止めます。それに身体は交わさなくても、貴女と一緒に居られるだけで嬉しいですから」ちょっぴり無理した表情で、薄く微笑んだ紅緒君。「ほんとにいいの?」問い掛けに黙ったまま、ただ強く抱き締めてくれた。 「染姫?どうした?ぼーっとして!」「あ!ううん!何でもないよ!早くランチ来ないかな~!」はぐらかす私。「報告したかったのって、この件だったんだ!あーなんか、久々にすっげー嬉しい出来事だなっ!!」 「もう一件、更にテンションが上がる報告があるよ!聞きたい?」(。-∀-) ニヒ♪ 「マジッ??もったいぶらずに言えよ~!昼休みが終わっちまうっ!!」「しょうがないなぁ~!はい!これ!」彼の前に差し出したのは一通のエア・メール。 「エア・メールじゃん。誰からだ?」手に取りまじまじと字を見つめる。やがて筆跡から、誰からか気が付いたみたい。裏を返し、差し出された国名を確認して呟く。「浄瑠璃・・・あいつ、何でフランスにいるんだよ?」「その内容が書かれているのよ!読んでみて!」勧めると、ゆっくりと手紙を封筒から取り出し、視線は字をなぞり始めた。 「姉さん、白雅、お元気ですか?毎日、慌ただしい日常を送っているんだろうね。 僕もなんとか元気でやっています。こっちに来て二ヶ月が経ったけれど、フランスは僕に 合っているみたいです。こちらでは自分の主張をはっきり言わないと、相手に伝わらない お国柄なので、最初は戸惑ったんだけど、慣れてくるとその方がいいかもって感じている。 取り囲む人々が、まるで白雅みたいにストレートに感情を表現するんだ! (白雅、褒めているんだからね!) そうそう!嬉しい報告しなくちゃね!Sarraute(サロート)さん懐妊したんだよ! もうね、ご夫妻は大喜びなんだ!今から名前を、あれやこれや考えている姿をみると、とても 幸せな気持ちになるんだよ!子どもって宝物だね! 正直、僕が父親になったっていう、実感はあまりないんだけど、結果的には、彼らに 協力できて良かったかな。姉さんも懐妊したってメール貰って、予定日が同じだってことに 驚いちゃったよ!産まれる日も、同じだったりしたら楽しいよね! それと、白雅。君に何も言わずこっちに来てしまった事、ほんとごめん。 君に逢ったら決意が鈍くなりそうでさ、それが一番恐かったよ。 フランスに来た理由はね、バトラーから、コンシェルジュを目指す為なんだ! 今はリッツ・カールトンで働いている。まだまだひよっ子だし、慣れない部分も多いんだけど、 結構楽しい日々を送っているよ! 大和韓民国にいた頃は、周りと異なる髪色、眼の色が珍しがられたけれど、フランスでは、 皆異なっていて当たり前だから、僕も、ありのままの自分でいられる。 白雅、君が高校の時、僕の髪色を好きだって言ってくれた事が、今の髪色になるきっかけだったね。 劣等感の塊みたいだった僕を、少しずつ変えてくれたのは、白雅であり姉さんであるんだよ。 だから今の自分は此処に来る事が出来た。2人がたくさんの励ましと勇気をくれたから。 今度は僕が、多くの人々に勇気を与える側になりたい。 それが、コンシェルジュを目指そうと想った理由なんだ。 もう過去に囚われないで、ただ先を見つめ、目標に向かって進んでいくよ! 白雅と姉さん、直向に夢の実現の為に、日々努力を繰り返す君達のようにね。 姉さん、見送りの時にくれたアルバム、みんなが恋しくなった時、元気が欲しい時 いつも眺めているよ!離れていても写真を見つめると、一人じゃないんだって想える。 また手紙を書きます。2人共元気で!そして身体に気をつけてね! 浄瑠璃 読み終えた白雅は、深く溜息をついた。「そう・・・だったんだ、コンシェルジュに。あいつは凄ぇよ、高校時代も深夜まで勉強していた。隣の部屋から、窓越しに覗くと灯りが見えるんだ。でも、起床時間に遅れたことは一度もなかったよ。三年間、ただの一度もだぜ?」 過去を想い出して、遠い目をする。「その頃から努力家だったのね、浄瑠璃は。あの子らしいわ」注文したランチを、店員がテーブルに、丁寧に並べてくれる様子を目にしながら答えた。 「そうだな、浄瑠璃は真面目だからさ、適当にやって結果が出ちゃう、俺みたいなタイプと正反対なんだ!」 「それはそれで、貴方も別な意味凄いかも!ねっ、冷めないうちに食べよう!」「ん・・・そうだな!おっ!!アマトリチャーナ美味そうっ!!」彼は、フォークとスプーンを手にして、大好きなパスタを前に、ちょっぴり嬉しそうに微笑んだ。 好きとは最大の魔法へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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