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空想世界と少しの現実

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「な、染姫。お前、いずれか紅緒と一緒になる気あるのか?」唐突に切り出す内容に驚いてしまう!「どうして?」

「ん・・・東京に店出す際に、紅緒に店長任せようと想っていてさ、それで聞いてみた。今後お前だって子ども抱えて、ずっと一人ってわけにはいかないだろうよ!シングルマザーは大変だぞ!」「でも、黄麻君に声は掛けたの?」「奴には此処を任せたいんだ。東京行き打診したけど、あっさり断られた。 『子どもが小さいうちに、単身赴任は辛いですよ!』だとさ!まあ、子煩悩なあいつらしいけど」

「正直、紅緒君と、一緒になるなんて考えてもいなかったよ。だって結婚は、もうこりごりだって想っちゃったんだもん!」「それって俺のせい・・・だよな?」それ以外に何があるって言うのよ!言いたいけれど、言葉をぐっと飲み込んだ。だって、白雅のせいだけじゃないんだものね。曖昧に微笑んで言葉を返す。

「そうじゃないよ、一緒になるには、まだ彼を知らなさ過ぎるって考えているだけだよ!それにまだまだ紅緒君、頼りない部分が多いんだもん!」「未熟だからこそ、互いを支えあって、苦労を共にしていけばいいんじゃねぇの?短かったけど、少なくともお前との結婚生活の中で、俺はそう学んだよ」

皮肉よね、彼は離婚後、その事に気がついたんでしょう。私は最初から、支えあう覚悟はできていたのにね。やはり互いの気持ちに、温度差のあるうちは一緒にはなれないよ。でも、白雅から東京行きの話を打診されたら、紅緒君は私に、何らかのアプローチしてきそうな気がする。

「時間はたっぷりあるんだもの、たくさん考えないと!私だけじゃなく皆それぞれに、事情があるんだから」答えた後、さっきの会話の中の『奴には此処を任せたい』との言葉が引っかかっていた。「白雅、貴方・・・もしかして他にも・・・?」「おっ!!察しがいいな!だったらどうする?無謀だって止めるか?染姫?」

そう、貴方の構想の中には、やはりあの場所が入っていたのね。「いいえ、下見に行くのでしたら、早めに申請してください!航空費だって馬鹿になりませんからね!」「了解!経費で落ちないなら、自腹でだって行くつもりさ!」彼はウインクをして、食後のエスプレッソを口にした。

毎日仕事を終えると、真っ直ぐアパルトマンには帰らずに、必ずJolivet(ジョリウ゛ェ)さんの所に寄る僕。それは彼から、コンシェルジュとしての教育を受ける為。Sarraute(サロート)さんと、夫Daladier(ダラディエ)さんと、一緒に暮らしているJolivetさん。話してみると、意外にジョークも好きで、フランス人らしくESPRITに満ちた人だ!

「浄瑠璃は、教えた事を覚えるのが早いので楽ですね!大したものですよ!」励ましの後、少し嬉しそうに微笑む彼を見ると、もっと頑張らなくちゃ!って想う!自分の中に、こんなにも強い情熱を感じるのは、きっとホテルマンになりたいと考えた時以来だろう!夢は叶えるもの!だから、がむしゃらになれるんだよね!

「浄瑠璃!仕事本当に楽しそうね!大和韓民国にいた頃より、生き生きとしているわ!」帰り際、玄関まで見送ってくれた三人。「そうですか?自分ではあまり解らないんですが・・・」「いや、明かに変わったよ、浄瑠璃は!言葉に自信が漲っているもの!見ていると頼もしいくらいさ!」夫Daladierさんの言葉に、Sarrauteさんは首を縦に振る。

「ありがとう!素直に嬉しいです!」褒め言葉には素直になろうと考え、謙遜表現は、なるべく使わないように心がけていた。けれど、長年染み付いた言葉のクセは、なかなか取れるものではなく、出てしまう度にJolivetさんに何度も注意されてしまう!「この国のコンシェルジュは、慇懃無礼なくらいでいいんです!浄瑠璃は人の顔色を伺い過ぎなのと、気をまわし過ぎ!それに表面面の謙虚さなど、コンシェルジュには必要ないと想いますが?」

伝えたい事をはっきり表現する彼。明確で的確。言葉を聞く度に奮起!仕事でも、注意された部分に気をつけながら行動すると、宿泊客からの僕の評価に、跳ね返ってくるのがとにかく楽しくて仕方なかった。「浄瑠璃!気をつけて帰るんですよ!いくら貴方が男性とはいえ、この町はbisexualもいるのですから!」

「それは僕の事?Jolivet?((藁´∀`)) でもさすがに、自分そっくりな子には手は出したくないなぁ~!」「やーね!Daladierったらっ!!浄瑠璃にセクハラ発言よっ!!でも若い時の貴方そっくりの彼を見てると、その気になっちゃうかも~!」(%!'艸`@)「私が思うに、御二人の会話そのものが若い彼に対し、セクシャルハラスメントだと感じますけどね!」(>д<;)

絶妙なタイミングで、Jolivetさんの鋭い突っ込み!humourとwitを上手に使い分ける彼。相当、頭の回転が早い人なのだろう!仕事中でも、目標とする存在を意識して行動する僕は、リッツのGMから直々に「君を見ていると、若い頃のJolivetを見ているようだ!」なんて、最大級の褒め言葉をくれた。それもコンシェルジュを目指す自分にとって、仕事を頑張れる励みになっている。

ァ'`,、'`,、(ノ∀`*)'`,、'`,、「十分気をつけて帰ります!僕、これでも足速いんですよ!タップダンスする為に、毎日長距離走っていましたからね!それに、毎日お邪魔してすみません。ご迷惑じゃありませんか?」
「やーねっ!!(´∀`*))ァ'`,、 浄瑠璃は私達にとって、恩人でありもう家族と一緒なのよ!遠慮なんて要らないわ!」

夫妻

「そうだよ!彼女の言う通り、君は僕らの恩人なんだから、もっと甘えていいんだよ、浄瑠璃。嗜み心って、美徳が日本人にはあるんでしょ?君とは、お国柄も文化もまるっきり違うけれど、他人を大切にする心は、国が違っても共通なんだもの。家族のように、君自身を僕達に出したっていいんだからね!」

少し微笑みを浮かべながら、静かに話すDaladierさん。僕らが美徳としてきた人との距離間は、この国では人に冷たい印象を与えかねないと、彼らは教えてくれる。「ありがとう!Daladierさん!家族が出来たみたいで嬉しいです!僕、フランスに来て本当に良かった!」言葉に嬉しそうに頷く彼ら。

「いけない!もう、夜の8時です!帰らなきゃ!」腕時計をちらりと見て、帰るきっかけを切り出す。これもスムーズに帰る為のフレーズだと、僕も彼らも知っている。「長居してすみません!お休みなさい!Daladier、Sarraute、Jolivet!」

「気をつけて帰るんだよ!」「またね!浄瑠璃!sayonara!」「明日も待っていますよ!浄瑠璃!お休み!」

アパルトマンの階段まで出てきて、口々に彼らは別れの言葉を言う。その言葉を背に軽く手を振って、レンガ敷きの道路に足音を響かせて走り出した!少し雨がパラパラと降っている夜の街。映画Singin' in the Rainを想い出した!フレッド・アステアの次に好きな、ジーン・ケリーの主演映画だ!

歌詞が自然に口について出る。映画のように軽いステップを踏むと、心も身体も解放感に満たされるよう!街行く人々の視線に気がついて、軽く苦笑いをして、ステップを止めて走り出した!「いけない!つい、夢中になっちゃった!」独り言を呟いて・・・


Jolivetさんの用意してくれたアパルトマンは、三階建てで、決して広くは無いけれど、風は通るし結構快適。隣人も、皆一人暮らしで国籍も様々。此処では僕はアジア人としてではなく、一個人、浄瑠璃として過ごせる気楽さがある。

慣れ親しんだ国よりも、海外の方が肌に合うのは、僕がロシア人の血を引くからなのかな。本当は濃密な人間関係より、付かず離れずの浅い関係が心地良い。本音を曝け出せるのは、この世にたった一人だけ。歩きながら、遠く離れている愛しき人を想う。「今頃どうしているのかな・・・白雅・・・」君の名前を口にするだけで、今すぐに、逢いたい気持ちが湧き上がって来るよ!ジャケットの、胸ポケットに忍ばせた写真を、服の上からそっと押さえた。

逢えなくても心は一つ。想いはきっと君に届いているよね!


歩く前方に男性二人の人影。どうやら噂話らしい。追い抜きざまに会話を耳にする。 「全く、さっきの若い子はなんだったのかね?ろくすっぽフランス語を喋れないのに、よくもまあこの国に来たもんだ!」 「あれはJaponaiseだろ?風貌はUKっぽかったけどな!道なんか親切に教えず、上手くだまくらかして、金巻き上げればよかったんだよ!」

なんだか物騒な会話だ!ただ、確かに今の男性二人組の言う通り、フランス語が出来ないとこの国は厳しいだろう。フランスでは日本人は目立つからな、集られたりしなきゃいいけど。見ず知らずの人に同情心を抱く。喋れなかったら、僕も集られていたのかな・・・ふと沸き起こる想像に、ちょっと身震い!急に怖くなって、アパルトマンに向かって小走りに走り出した!

最終回・・・俺だけの宝物へ








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Last updated  2008/08/18 03:45:34 PM
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