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カテゴリ:オンナ心
まるで、十代の頃みたいなトキメキが新鮮で初恋を想い出す。小沢もそうなのかな?ドキドキ心臓が波打つ度、突き刺さる痛みが懐かしいなんて、年齢を重ねたんだなぁ・・
同姓からはカッコいい女って言われるけど、昔から異性から良い印象は持たれなかった。体も大きくおてんばだった少女時代。体力での強さも、ずっと男の子と同じでいられるって思ってたの。 そうじゃないって解ったのは中学だ。初潮を迎え、それまでクラスで一番足が速かったのに、私より足の遅かった男の子達にタイムが抜かされていく。背の低い子が私より力が強く身長が高くなって、体では男には敵わないと知ったよ。 それでも男に負けるのは癪で、力で敵わないのなら頭の良さと少しの毒舌、更に、男同様の社会的地位を手に入れる事で、男と対等でいたいと思ったんだよ。君はそれを知る唯一の理解者でいてくれたね。 優しく髪を撫でる手の温もりが心地よくて、呼吸も波立った感情も少しずつ引いていく。きっと、いつも穏やかな彼の心がシンクロしているんだ・・・ それほど長い時間じゃなかった筈なのに、時が止まっているかのような錯覚に陥る。ずっとこうしていたいけれど、脳裏に雅夢のふてくされた顔が浮かび小さく溜息をつく。ありがと・・ね。小沢・・背中に回した手をそっと降ろして呟いた。 「・・もう大丈夫、落ち着いたから・・・」声に小さく頷き、もう一度髪をゆっくりと撫でた後体を解放する。優しい視線。フッと口元で微笑んだまま、ゆっくりとした動作で立ち上がった。「美香さん、仕事をしていた頃より、今の貴女のほうが魅力的に見えますね」「そっ、そう・・かな?」顔が紅くなるのがはっきりと判る!両手で頬を隠し、慌てて小沢との視線を逸らす。さらりと言わないでよ、戸惑っちゃうから。 こっちの感情を見抜いたように、溜息を大きくついて話し出す。「やはり遠藤さんのせいでしょうね。悔しいけれど、彼の言うようにお二人の間に割り込むのは難しそうだ!」 「雅夢がそんな事言ったの?」「言いましたよ!自信たっぷりにね!詳しくは貴女とのデートの日にお話しましょうか。次週の日曜日マンションに迎えに行きます。時間等は彼から聞いて下さいね。じゃ、今日はこれで失礼します。ゆっくり休んで下さい、美香さん」 差し出された手に右手で応じると、顔を綻ばせて微笑みを浮かべた小沢。本当に嬉しそうに。プライベートの貴方は屈託のない笑顔を見せるんだね。ドアに向かう、彼の背中に心の中でそっと語りかけていた。 美香の検査入院から退院後、毎日一緒に居るのに、デートの日が近づく度酷く憂鬱で、美香からは呆れられる始末。結婚しているのに美香をよく知らない俺と、結婚はしていないのに美香をよく知ってそうな小沢さん。それにさ、あの勝ち誇ったような態度、一体何なんだよっ!!珍しく親父さんが風邪を引いて、俺も仕事を休んでいる。彼女は、親父さんの容態を見に行く為に支度中。リビングにあるテーブルに腰掛け待っていた。 実家まで送って行くって言ったのに「一人で行く」と言い張る美香。なんだかさ、退院後美香の様子が変なんだ。なんつーか余所余所しいっていうのかな、態度が微妙っつーか。聞いても 「なんでもない」っつーし!それが余計、小沢さんとのデートを不安にさせてるっつーのっ!! でも言い出せなくて悶々としてる訳で。逆に美香は、ちょっとだけ嬉しそうに見えるのが気に入らない!男だもん、自分の女が、他の男と一緒に歩いているのを見るのだって嫌じゃね?誤解だって嫉妬だってするだろうよ!それとも美香は、俺が他の女と歩いてても嫉妬もしないのか? ぐるぐると思考を廻らせていると、支度を終えた彼女がリビングのドアを開けて入ってきた。夏らしい、肩を出した薄い青の小花柄のワンピース。仕事着でも私服でもかっちりとした、どちらかというと暗めの色が多い彼女の服。「明るめの色も似合うよ!」って説得し 「こういうのは着た事ないのよね・・」と渋る美香に初めて買った服だ。 シルエットが綺麗に出るタイトなワンピースで、ほっそりした彼女によく似合う。覗かせる細い足首だって、ヒールを履いていなくとも十分綺麗だ。顔を見て思う、やっぱ美人・・だよな。ちょっと溜息をついて見つめたままの俺に、何も知らない様子で微笑みかけてくる。「今日は雅夢が買ってくれた服にぴったりのお天気ね!お化粧崩れないといいなぁ・・」 「だったら俺の車に乗っていけばいいのに!何で今日は電車で行くんだよ。それに何故一人で行くわけ?」自身でもはっきりと判る、尖った口調に苦笑顔で答える。 「お父さんはね、具合の悪いところを見せたくないのよ。私もそうだもの。貴方の棟梁としての意地だと思って勘弁してあげて・・ね」 宥めるような話し方がかえって気に障り「わかったよ!」と乱暴に答えた。何で俺、こんなに苛立っているんだろう。自分の感情がコントロール出来ないだけで、美香は何にも悪くない。今、二人の間に流れる空気はめっちゃ最悪で、振り払うかのように彼女から視線を外す。 「お父さんのお見舞いに行くだけなのに、何をそんなに怒っているの?」問いに「別に!」ただ一言、投げやりに答える雅夢。怒っている原因なんてただ一つ。明日に迫った小沢とのデートなんでしょう?「ねぇ、自分の感情のまま言葉を発するの止めたほうがいいよ!雅夢は子ども過ぎるよ!」 「あーそうーですかっ!!どーせ俺は子どもですよっ!!」 ムカッときた!このっ!感情を抑えられない年下男めっ!!悪いけど口じゃ負けたことなんてないわ!「貴方の苛立ちの原因は小沢でしょ?そうね、貴方も知っているとおり、彼はとても大人よ!頭も切れるしルックスだって悪くないわ!彼に憧れる派遣社員も多かったもの!第一雅夢みたいに、些細な事で切れたりなんてしなかったわ!」 「悪かったな!ガキで御馬鹿でさ!顔は良くても中身が伴わないって言いたいのかよ!他の男とデートするってことに妬くのは当然だろ!?お前は俺の女なんだぞ!」ルックスだって悪くないだとっ??やっぱ小沢の言うとおり、美香は眼鏡好きなのか??!「美香さんの好みの男性は長身で細身のインテリ。眼鏡の似合う男性だってご存知でしたか?」彼の言った言葉が一瞬で頭を過ぎるっ! 「彼に嫉妬する位だったら、何故小沢に気持ちを伝えていいなんて言ったのよっ!!私は気がついていたわ、とっくに。でも互いを守る為に気がつかない振りしてきたの。TOPに立っている人間が、色恋事で足をすくわれる事態なんて、死んでも避けたかったんだから!」 「雅夢がそれを壊しちゃったんじゃない!事情を知りもしないで余計なことしないでよっ!!」強い口調で言葉を吐き出し、テーブルの上に置いてあったハンドバックを掴んで、足早に部屋を後にした。諍いなんて一番嫌いなのに、雅夢のバカっ!!心の中で呟いて・・・ 気圧された状態で一人部屋に残された。俺のした事は、美香にとって余計なお世話ってやつだったんだろうか?彼女の残した言葉を頭で何度も反芻させる!美香は小沢さんの気持ちに気がついていたなんて。それって好意を抱く男が傍にいながら、地位を守る為に感情を押し殺してきたのか??美香を想う気持ちだけで突っ走って、これまでの彼女の立場の重要性に気がついていなかった?俺が、感情の鍵を開いてしまったのだとしたら二人は・・マジでやばいかもっ!!すぐに彼女の後を追って部屋を出たけれど、とうに姿は無く、携帯に電話をしても留守番電話になるだけで、追跡は諦めるしかなかった。 よろよろと部屋に戻り、冷蔵庫に入ってたストリチナヤ ウォッカを取り出し、ストレートのまま一気に煽る!度数40の酒が喉を通ると、ヒリヒリとした痛みが徐々に不安を麻痺させていく。酒に逃げるなんて褒められたもんじゃねーけど、今の俺には深く考えるほうが辛いんだ!「あー・・駄目だなぁ・・俺ってちっせーな・・・」呟いて寝室にウォッカを持ったまま歩き出した。 雅夢のバカバカっ!!感情が乱れたまま早足で歩く。なんであんなに子どもなんだろう?たかだかデートなのよ?もう大人なんだから、少しくらい私を信用してくれたっていいじゃないの!携帯の着信も無視して、エレベーターに乗り込み壁に体を預けながら思う。素直な部分は好き、だけど大人気ない態度はホント勘弁だわ! 考えているとエレベーターは一階に到着し、機械音をたててゆっくりとドアが開く。エントランスを足早に通り過ぎ、外に通じる自動ドアをせわしなく抜け、ふと立ち止まり空を見上げた。 注がれる日差しは強いけれど、珍しく湿度が少ない。そよそよと撫でる風が心地よくて、父に会いに行く前に、美容室に寄っていこうと思いつく。いいよね、明日はデートだし、頑張っている自分にご褒美あげたって!今日は煩わしい事なんて考えず楽しく過ごそう!気持ちを切り替えると、雅夢との言い合いもどうでもよくなって、大またで颯爽と歩きはじめる。こつこつとアスファルトに響く、ハイヒールの音が心地良い。病気でどんなに痩せたって動けなくなったって、自分自身を誇れる生き方をしたい。私は最後の瞬間まで美香っていう女でいたいんだ・・・ オンナ心 ホストクラブ へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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