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カテゴリ:鴉
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彼女は姓を松永といった。 余人には何の感慨をも抱かせないであろう平素な姓が、 自分の胸にはある種の慨嘆をもって迎えられた。 今より数えて数百年前に生き、はかりごとを巡らせて主家を簒奪し、 時の公方たる人を弑したばかりか、東大寺の大仏殿を灰燼に帰せしめた梟雄、 松永久秀の名が自然思い出されたからだ。 自分は常ならぬ悪行を為した、この豊かな教養のある美男を 密かに慕うところであったから、彼女のもの静かで涼やかな雰囲気を、 想像するところの久秀のそれと重ね合わせていたのだろう。 そして、それが恋心に転じるまでには幾らも時間を要さなかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.06.15 17:12:09
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