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カテゴリ:【ドキュメント】細谷十太夫
そもそも石巻に行く道ですら栗駒に遊びに行ったときにたまたま手に入れた登米町の観光ガイドに宮城県北の道が書いてあったのを当てにして走っていたのだから、「ここは石巻市内」とあっても道など分からない。
俺達は駅に着いた。11時半。飯だ。 駅前の駐車場は見事にガラガラで、車を降りると期待通りの晴天、強い陽射し、ちょっとした潮風。 「幸先良いなあ」と俺が言ってもよっちゃんは微笑んでいるだけだった。 「あそこに観光ガイド協会ってテントあるぞ」と陽射しを楽しんでいる俺をよそによっちゃんはすたすた歩き出した。 「ようこそ、石巻へ」 よっちゃんはすでに話していた。で、よっちゃん、どこに行くのか知っているのか? 「どちらに行かれます」 俺が追いついた時に丁度聞かれたので「青葉神社と住吉公園に行きたいのですが」というと、 「はあ?」 と二人のボランティアのガイドの方は声を上げて驚いた。 俺も何故驚かれたのか分からなかったが、広げられた地図にまず住吉公園を見つけたので、 「ここですよ、行きたいのは」 と俺が指をさすと、 「う~ん」とまた二人。 で、とうとう、 「何もないですよ」と一人の方に言われた。 「何もないって、住吉公園ってこんなに大きいじゃないですか」と俺。 「いやあ、どちらも本当に何もないんですよ」 ガイドの方々が悩んでいる。 「細谷十太夫に関連したところと聞いたのですが」 そう俺が切り出すと、 「ああ、十太夫さん」 と二人は声を合わせて言った。 「ははあ、これはお珍しい。十太夫さんを調べにいらっしゃったのですか」 ガイドの方、松崎さんと仰る、は嬉しそうにテントから出てきた。 「そうなんですよ。調べにってほどじゃないですけど、細谷十太夫が大好きだった石巻を見たくて。で、ほとんど資料がない人じゃないですか。だから何か分かればと」 「これはこれは。初めてですよ、ここで十太夫さんって仰った人は」 「維新仙台の英雄だったそうじゃないですか」とこれはよっちゃん。なかなかやるな。 「そうなんですよ。十太夫さんはこの石巻を救ってくれた方でねえ。鴉組の隊長さんで」 「そうそう。ゲリラ隊の親分だ」とこれは俺。 「この部分は大街道(おおかいどう)と言いましてね。十太夫さんが中心になって作ったんですよ。戦争が終わった後の仕事が無くなった人たちのためにねえ。ははあ、なるほど、青葉神社が近くにありますね。思い出しましたよ。これは仙台の青葉神社を再興した時の材木を十太夫さんが持ってきて作ったから青葉神社でした。そういうことなら青葉神社も分かる」 「そういった意味があったのですか」 「そうなんですよ。で、まあこの地図を見てください」 俺達は観光マップを見た。 「ここに毛利邸があるでしょう。で、その先の岬に榎本艦隊がきましてね」 「俺はどうも榎本って好きになれないんだよなあ」 「あははは。石巻の人間もそりゃあ恨みましたよ。何たってここを戦場にするっていうんだから。で、十太夫さんが皆と相談して物資をあげて、出て行って貰おうと」 「それは聞きました」 「ところがそれだけじゃないんですよ。もう米から人夫から根こそぎ持っていった。五稜郭二か月分だったかなあ。これで潰れた家がいくつもあったんですから」 「な、よっちゃん。俺がどうも榎本好きになれない理由が分かったろ」 「俺初めて聞いたぞ」 「うん、今確信した。じゃあ、五稜郭の戦いは石巻の物資でやったわけですね」 「そうなりますなあ」 「で、土方が頑張っているのに降伏して」 俺は戦争は嫌いだが、土方歳三は大好きなのだ。 「石巻の人達にとっては薩長軍だろうが榎本艦隊だろうが何でも盗っていかれたわけですよ」 だから戦争は嫌いなのだ。 「十太夫さんは憎む薩長を切り倒し、石巻を火の海にするぞという榎本を追い出し、そういった点で痛快なわけですよ、私達にとっては」 って、松崎さんだって十太夫の話なんか滅多に出ないようなこと言ってたのになあ、元気になっちゃったよ。良い事だ。 「そりゃ、薩長にとってみれば一番欲しい首でしょう。でも結局生きちゃった。凄いことですよ、これは。もう堂々と、『鴉組の細谷だ。通るぞ』なんて言ってねえ、まかり通すんだから。十太夫さんはここで捕虜になっちゃったりしてね」 「でも生きたんですからね」 「そうです」 ここで気付いたが、俺も松崎さんも官軍・賊軍とは使わない。あくまで薩長軍、榎本艦隊、そして鴉組だ。 「鴉組は武士の集団ではなかったのですよ。博徒や農民の集まりでね。武士がやらんのなら俺達がってことで」 それは知っていた。細谷十太夫本陣だ。痛快な瞬間だ。男の花火だ。 「教育委員会でも十太夫さんの話を広めようかと動いている時なんですよ。丁度良い時にいらっしゃった。励みになります。そうそう図書館で蔵書が整理されているはずですが」 「それが、今日休みらしいです」 「それは残念。あ、ちょっといらっしゃい」 俺達はテントじゃない駅の横の観光協会に連れていかれた。 石巻市史。 何冊もある中から一冊を出してぱらぱらと松崎さんはページをめくって 「ここですよ」 そこには時の県令に3万円を出させて大街道を作った細谷十太夫と出ていた。 「石巻に本当に縁のある人なんですよ。どうです。時の県令に3万円出せと脅したともとれるでしょう」 しみじみ語る松崎さん。しかしすぐにそのページを開く松崎さんも凄い。 「何で、仙台人は知らないんですかね。俺、仙台に10年居たんですけど一度も聞きませんでした」 「どうなんですかね。仙台はやはり武家の歴史なんじゃないですか。博徒や農民の歴史はないのかもしれませんね」 「じゃあ十太夫さん、薩長、榎本、そして仙台藩からも面白く思われていなかったんですかね」 「さて。どうですかね。薩長は間違いなく嫌いでしょうな。でもきっとまちの人には人気だったでしょう」 「県令だって薩長でしょう。こりゃ並の度胸じゃないなあ」 「度胸だけじゃなく非常に勉強した人でもあったようです。石巻図書館もそうですが、仙台でも十太夫さんの蔵書を整理したんじゃなかったかなあ」 「いやあ、俺もそう思っていたんですよ。上役と喧嘩したり、誰にでも意見具申をしたというからには相当勉強したと思うのですよ」 「あなた、今度図書館に行きなさい。前の日に電話を入れて『細谷十太夫の資料をみたい』と言っておけば、館長が用意してくれる筈ですから」 「電話をするんですか」 「ええ。そうすれば用意してくれます。あなたのその体で乗り込んだら・・・あっはっは。こりゃ、十太夫さんが県令を・・・あっはっは。脅したような感じでしょうなあ」 松崎さんは俺の背中をバシバシ叩いて喜んだ。 そうして俺達は松崎さんに指示された細谷十太夫縁のところを歩く事になった。 「どうもありがとうございました」 俺達は松崎さんにお礼を言って車に向かった。すでに時間は13時30分。 「どうやら大変な事になったようだな」と俺。 「いやあ、やっぱり何かあるもんだな」と俺の法螺吹き男爵話に信憑性を持ったよっちゃんも興奮気味だ。 「人との出会いが本当の旅なのだ」 しかしこの後、恐るべきことが・・・というか・・・(つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006/05/10 10:28:48 PM
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