soul-eye

さっぱり幽霊が出てこない無頼控え




「やっぱ乱闘は楽でいいねえ」

英雄だ

「こいつら手強いぞ」

川中が弱音を吐いた

「なあ英雄。面倒くさいからあの田中だっけ（間違えている）。あいつやっちまおうぜ」

「何でよ。俺はまだまだいけるぜ」

「俺は痛いんだよ、お前と違って」

「でも確かに面倒くさいな」

「大体菅原が遅いから悪いんだ」

田中と間違われたずんぐりは乱闘に混じっていなかった

自分の身内では強い者から順番に連れてきたつもりだ

だが４対２でも決着がつかない

しかもあの二人、自分を的にしようとしている

「あんたら、何だって喧嘩するんだ。俺は話し合ってたはずだぞ」

ずんぐりだ。その言い分は正しい

しかし恐怖から闘争本能に火がついたずんぐりの子分も

そして英雄たちも聞いてはいなかった

いや、英雄だけは余裕を持って

「だってよ。仲間がこのオヤジのために警察を呼びに行ったんだ

帰ってきたらオヤジさんは柄の悪い奴に連れて行かれたって言えねえじゃねえか」

と答えながら殴り合っていた

及川は暢気にいびきをかきだした

それを聞いた英雄

「カワ。お前の言うとおりだ。やっちまおう」

「おう」

英雄と川中は絡んできている二人ずつを振り切って

ずんぐりに向かっていった

「お、おおおお。起きろ馬鹿」

田丸が足元で寝ている先にやられた仲間を何とか起こそうと蹴っていると

「はいよ、そこまで」

と素っ頓狂な声がした

「はいよっと。ひでちゃんよ。前に言っただろ

ヤクザもんと喧嘩をできるやつがヤクザだって

こっちが合ってるんだよ。はやくおいでよ」

「おやっさん。気配消してくるのは止めてくれよな」

英雄がにこやかにその声の主に言うと

「親父」

とずんぐりが言った

「田丸」

着物姿の老人が言った。英雄並に大きいが白髪で長髪の後ろを束ねている

笑った目はとにかく深い

「おめえ。小遣い稼ぎはいいけどな。無茶は駄目だよ

それに帰ってきたばかりだ。知らねえのは仕方ねえが、

この兄さんが絡んだ事は手をださねえキマリになっているだよ」

「こんな小僧にですか」

ずんぐり田丸がビックリして言ったが

「俺か？」

と英雄もびっくりした

「田丸よ。俺はお前が引っ張られるのが嫌なんだよ

もうおまわりさんがそこまで来ているよ、帰りな

またお前が居なくなると俺が困るんだよ」

親分は淡々と語って聞かせた

「それにな。田中源蔵には関わるな

なんぼなんても政治屋の仕事は汚ねえを超えているからな」

田丸は渋々引き上げていった

「おやっさんのしのぎを邪魔したのか」

英雄は親分に向かって言った

川中は道路側に落ちた及川をまた縁石の内側に戻していた

「そんなことはねえ、心配するな。あれは田丸の小遣い稼ぎよ」

「だったら良いけど」

「間に合って良かったよ。美鈴ちゃんが教えてくれてねえ」

「美鈴ちゃん？」

「ああ、あのお姉さんだろ」

川中が言った

「それと、あそこで菅原君も困っているよ」

親分の指す方を見ると

菅原が警官に取り押さえられていた