カテゴリ:●病院
前にも書いたが、僕がいた病室はほとんどがカテーテル検査入院の人たちなので、1泊2日コースが多かった。知り合ってもすぐに退院してしまう。親しくなったTさんも入院は10日間で、看護師さんから退院日のことを知らせてもらって気持ちはウキウキしているようだった。僕のほうも主治医から退院日のことを聞いているので、そのことを部屋に来る看護師さんたちに言うと「聞いてないわ」という冷たい答えばかり。なかには「ふふふ」と、マスクの奥でいたずらっぽく笑う看護師までいる。おかしいなあと思ったが、どうやら主治医は忙しくて看護師さんたちに言うのを忘れているのだろうと自分なりに答えを出した。Tさんが退院した翌日は自分はカテーテル治療があり、あと数日間で退院が近づいているのを喜んでいた。カレンダーがあったら、X印をつけたい気分だ。ところが病室に診察に来た主治医の話だと、術後にレントゲンと採血検査をやるために1週間伸びたのだった。ウソだろーと思い、看護師さんに退院日が伸びちゃったよと嘆くと「きっと先生に気に入られたんでしょ^^」と冗談で励まされた。ところがこちらは仕事の打ち合わせの予定日が決まっていたのでかなり焦っている。金曜日にカテーテル治療が終わったが、主治医の新しい予定では土・日は病室でゴロゴロ。月曜日はレントゲン検査。火曜日もベッドでゴロゴロ。水曜日に採血。木曜日もベッドでゴロゴロ。金曜日に退院と変更していたらしい。これにはさすがに「ちょっと待ってくれよ」と困ってしまい、もうこうなったら脱走しかないと考えた。
同室の、これまた親しくなっていたIさんに脱走計画を話すと、協力してくれるという。彼が、病院を抜け出して喫煙している者たちの脱出ルートや死角となる場所も教えてくれた。以前にこの病院の整形化に入院したことがあるから詳しいのだ。そこまでコソコソと隠れて脱出しなくても、他にも方法があるはずだ。うまい具合に、自分がいる病室は非常階段の横である。医師がこの非常階段を利用していることも確認済みなので、各階、外側から鍵がかかっている可能性は低い。それにナースセンターを通らずに、外へ逃げるにはここしかないと結論した。そして実行の日を木曜日とし、脱走し、クライアントと打ち合わせ後に仕事の仕上げを伸ばしてもらい、さりげなく病室に戻る計画を立てたのだった。ところが、看護師さんが病室に来た時に、Iさんが「JINさんは、脱走しようとしているから注意したほうがいい」とバラしてしまった。なんていう野郎だ。バラされたら、開き直るしかないので正直に仕事の予定が入っている事と、なぜベッドでゴロゴロしてなきゃいけない無駄な日があるんだと疑問を必死に訴えた。そんな僕の姿を見てIさんは「おかしい^^」と笑っていたが、脱走を本気で企てている同室者を心配したのかもしれないし、自分の責任を重く感じたのかもしれない。 Iさんが検査で病室を出て行くと一人になった。静かな病室で、しばらくして気持ちが落ち着くと冒険心は徐々に失せていった。そして、退院時間はほとんどが午前中なので、クライアントとの打ち合わせ時間を夕方にズラしてもらえば良いと考えるようになった。でも、脱走しようとする冒険心がいくらか残っている。とりあえず外へ出ようと思い、マスクの奥で「ふふふ」と笑った看護師さんを廊下でつかまえた。そして、突然に外出許可をもらえるかどうか訊いてみた。すると驚いたことにすぐに手続きをしてくれたのだった。同室のIさんが検査でいなかったので、外出することは告げずに廊下を出ると、向こうから歩いてくるIさんとすれ違った。「まさか、これから脱走するのか!?」と驚いた顔のIさんに無言で手を振りエレベーターに乗り1Fへ。裏切り者は、ちょっと脅かしたほうが良いのである。玄関に停まっているタクシーに乗り込んで自宅へ戻った。タクシーで5分くらいの距離。さっそくクライアントに電話をかけて打ち合わせ時間の変更をお願いすると、しばらくしてから安心して病院に戻ったのだった。すると、朗報が待っていた。看護師さんが主治医に伝えてくれたのか、水曜日の採血検査が1日早い火曜日に変更されたのだった。「ああ、これで木曜日には退院できそうだ^^;」と喜ぶと、「退院日のことは、まだ聞いていません^^」と、またもや目で笑いながらからかうような言葉が返ってきたのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Sep 13, 2010 12:24:19 AM
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