現生のイヌは東アジアでニホンオオカミとの共通祖先から分岐した
日本では既に縄文時代にイヌが飼われていた。最古の確実なイヌは、愛媛県上黒岩岩陰に埋葬されていた2体のイヌが知られており(写真)、放射性炭素較正年代は7414~7273年前(縄文早期末から同前期初頭)だ。 その後も縄文時代を通じて一貫してイヌが飼育されていた。◎小型のニホンオオカミ そのイヌは、どこから来たのか。LGM=最終氷期極大期2.65万~1.9万年前でも日本列島は朝鮮半島と陸続きにはならなかったので、日本列島の在来オオカミであるニホンオオカミからイヌは独自に家畜化されたとも考えられるが、世界的にはイヌの起源はユーラシアのどこか、と広く考えられている。 在来のニホンオオカミは小型で、明治時代初期に絶滅したが、これはシベリアや北米北部の大型ハイイロオオカミの別亜種だ。ニホンオオカミがハイイロオオカミよりずっと小型なのは、大陸のハイイロオオカミと遺伝的に隔離されたための島嶼化の結果だろう。◎遺伝的に近い関係のニホンオオカミとイヌ この縄文早期末以来の縄文犬とニホンオオカミやハイイロオオカミとの関係は興味深いが、このほど総合研究大学院大学の寺井洋平准教授らは、ニホンオオカミ9例(うち2例は、シーボルトがオランダに持ち帰ったライデン自然史博物館標本=写真は「ヤマイヌ」とされるライデンC標本)、日本犬11例を新たに深解読し、また世界のオオカミやイヌのデータも加えて、系統関係を調べた。 その結果、ニホンオオカミとイヌは近い関係にあることが分かった。ただニホンオオカミから直接イヌが進化したわけではない。そう早とちりすると間違える。 系統樹によると、ニホンオオカミは東アジアのオオカミと同じクレードから分岐したことが分かる(図)。そしてニホンオオカミの属するクレードからイヌが分岐していたようだ。◎オオカミが西から東に広がる過程でニホンオオカミの祖先が分岐、イヌはその祖先から 寺井准教授作成の系統樹からすると、ニホンオオカミと縄文犬は直接の系統関係がないように見える。 大陸のハイイロオオカミは、ヨーロッパから東アジアに広がる中で、東アジアのある集団がニホンオオカミの祖先となった。同じ集団から、世界中に分布するイヌの祖先となる集団が分岐したようだ。 ニホンオオカミのDNAの一部は、東アジアの現代のイヌにも受け継がれていた。オーストラリアの半野生犬のディンゴにも5%を超えるDNAが受け継がれている(ディンゴの起源については、22年7月18日付日記:「超希少な『歌うイヌ』の生き残り、再発見;オオカミから家畜化された初期の系統の生き残り」https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202207180000/を参照)。 ただ、この研究でもイヌが東アジアで初めてヒトに飼われて現生犬の祖先になったとする証拠にはならないが、起源は東アジアであった可能性が最も高いと言える。☆これまでのニホンオオカミ関連の日記・23年7月26日付日記:「札幌の旅(10):北大植物園の博物館に『無造作に置かれている』エゾオオカミと樺太犬タロの剥製」https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202307260000/・23年2月26日付日記:「ニホンオオカミのタイプ標本がイヌとのハイブリッドだったとは!? 謎多きニホンオオカミ遥かなり」https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202302260000/昨年の今日の日記:「凶暴な夥しい蚊に襲われた強烈な思い出、アメリカのエヴァーグレーズ国立公園」https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202304100000/