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愛と夢を結ぶことば☆Lillian

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2006.02.06
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カテゴリ:Stories


どのぐらい歩いたのだろうか。

足の裏は、すり傷で血が滲んでいる。



城の方角を振り返ると、

足跡がはっきりとわかる程に血痕が道すがらに連なっていた。

足の痛みも凍てついていて感触もない。


素足のまま、荷物も持たされずに城壁の外に追い出された。




冬の城内の牢の冬は北風や雨音で眠れぬ夜が多かった。


うつらうつらとし始めると、もう隣の牢の老婆の泣き声や、

年端もいかない若い15、16歳位の青年が討ち首を待つ恐怖に慄く。

そして、また新たな長い日を迎える。


城内に入る時に、付きの智徳に別れの挨拶を告げ、

輿入れをしてから、もう2年になる。


智徳は父上の命で何度か城を訪ねてきてはくれたものの、


頼康の公の前ではうかつな話も、

また、顔を合わせて目を見つめることもできる故なく。


障子越しに城外の世間話や、父母のこと、

猛々しく頼康の為に立ち働く、

兄の政義のことなどの武勇を聴くだけであった。



智徳は仏門の身の故に城内に出入りができた。


智徳と私とは幼なじみであり、境内や寺の裏などでよく戯れては兄の叱責をかったものだ。


智徳と私、常盤が17歳になった時、

偶々、鷹狩りで父の城の九品仏に立ち寄り、頼康は私を見染めたという。


九品仏の城主である父、出羽守は頼康に仕える身の上、

輿入れの話を断るわけにはいかず、

三人目の妻として世田谷城に入城する段となった。


「何も用意せんでいい。身ひとつで早くよこせ。」との命。


ただ、智徳と育てた鷺だけは許しを乞い持ち携えた。

鷺の名は、「朋(ほう)」。


智徳がつけた名であった。

「朋」とは、「死生を朋にする朋友同士」の二人の「契り」の「願」をかけた名であった。


「朋」は粉雪のような羽根を持ち、目を常にきょろきょろとさせ、

忙しいが賢い鳥であり、よく私たちに懐いていた。


森へ飛んでは餌を噤み、「ほう!」と鳴いては居場所を教え、

私たちの元に戻る。


「朋」は牢でも意識が朦朧とする私の前でも、

「ほう!ほう!」と鳴いた。



「朋!朋!朋!」と聴こえる度に、

私は智徳と日暮れまで無邪気に戯れた日々を思い返した。


朋友の智徳・・・。

髪を断ち切り仏門に入った朋友の智徳・・・。



「私はこれから、御仏を死生と致しまする。」

そう申した智徳。




若さ故の純真さに父程も年の違う頼康に寵愛され、

他の二人の妻の妬みをかい、


足繁く通い話の相手となった、智徳との噂を実しやかに城内で流されたのも、

二人の妻の妬みが結託したものであった。


噂に惑わされた頼康の逆鱗に触れ身重のまま牢へ。



そして臨月もいよいよ近くなると、


「自分の子ともわからない子を産むことはこの城内では許さないぞ。」

頼康はそう言い放つと、私を着のみ着のままで牢から出し、

城外へと放り出したのであった。


白い鷺の「朋」を手に抱え持ち、

雪道を進もうにも、長く牢に幽閉されていた為に、

足はなかなか先へとは動かない。


「一刻も早く智徳に会いたい。」

その想いだけで歩くと共にお腹の子供がうごめく。


寒さで下腹もきゅうきゅうと締め付ける。

子が泣くように・・・。


「この身の上、やはり父にも智徳にも会う身体では既にない。父上にはご迷惑。」


いざという時の為に父から受けた短刀が胸に忍ばせてあったのを思い出し、

左手の小指に傷をつけ、「朋」の尾に吹き出た血を当てた。


「さあ、飛んでお行き!私の死を知らせなさい。智徳に!」


そう願いをかけると、「朋」は手を離れて事の成り行きを察したように、

「ほう!」と一言鳴き、二度頭上で廻旋して飛び去った。


「済まないことをした。」とお腹の子に言い、

短刀で喉を突く・・・。


粉雪舞うなか、「死生を朋に!」と智徳と誓ったあの日々を回想し、

身ががっくりと崩れ逝く。


その先の川辺りで誤って撃たれた「朋」が同じく雪の上に落ちる音と共に・・・。





*文章は史実をフィクション化したものです。





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Last updated  2006.02.06 23:43:18
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