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カテゴリ:青年誌コミックス感想
映画が話題となった「この世界の片隅に」の原作を読んでみました。
映画の方は見てません。 読了感想としては・・・ 非日常である戦争を題材に持ってきてる作品ではあるけれど、人間は どんな環境であろと生活を営み生きていくんだなって静かな感動を 与える作品でした。 押しつけがましい戦争反対とか、悲惨さの連呼ではなくて、日常の 幸せが壊される状況が描かれていく過程でじわじわと国と国とが戦う 行為は不幸だよなと思わせてきます。 戦争を扱っているのに読んだ者に温もりを感じさせる作品って珍しい んじゃないでしょうかね。 特に原爆が出てきますし、当時が悲惨であったことは想像に難くない のですが、それでも悲しみに暮れるだけでなく前を向いて生きていく 様を特別なこととしてではなく日常の営みの延長として描かれていて。 どんな環境下にあっても人は生きていくんだということを当たり前の ことですが、改めて感じましたし、生きていく上には泣いてるばかり ではなく、そこには生活があり笑いもちゃんとあるんだということに 触れて安堵したり・・・。 悲惨さを強調しないからこそ、当たり前のようにある日常が奪われる ことが戦争なのだと後からじわじわと感じさせるのですわ。 親近感を覚える登場人物たちが直面する出来事を通し、とても身近に 戦争を疑似体験したような錯覚に。 でも、辛いとか苦しいとかの感情だけにフォーカスされていないため 後味は心地よく、人の逞しさや優しさに感動。 これは多くの人に評価されるわけだわと納得です。 主人公すずの朗らかな性格と作者の視点がいいですよね。 ちょっとおっとりというか、抜けてるというか、決して何でもそつなく こなすお嫁さんではないすず。 逆にこんな嫁で大丈夫だろうかとこちらが心配になるくらいなんですが そんな自然体のすずだからこそ周りの人に愛されるんでしょうね。 子供の頃、一度だけ会った人から嫁にと請われ、18で呉にお嫁に来て お舅さんお姑さんに可愛がってもらい、当時としたらすずは幸せな結婚 生活を送ってますよね。 出戻りの小姑径は当たりがきついけど、厳しいってだけで耐えられない ような意地悪をするわけじゃないし、その娘の晴美は可愛いですし。 が、やがて徐々に戦争が状況を変えていってしまうのです。 空襲や物資の貧窮が日常生活を脅かし・・・ それでも当時の人がみなそうであったようにすずも毎日の生活を少しでも 快適になるよう工夫して暮らしていって。 空襲警報も日常化してくると慣れてくるというか、それがまた生活の一部の ようになっていくのですね。 決して舐めてかかると言うことでは無く、警戒することが日常というか。 そんな状況でも楽しいことは楽しいと感じ、面白いことは面白いと感じる。 どんな状況下でも生きていくってのはそういうことなんでしょうね。 特に波風無く細やかな幸せを享受してたすずですが、闇市の帰りに遊郭に 迷い込んでしまってそこで遊女リンと出会います。 友情が生まれるのかなと思ったら、すずの旦那・周作と関係があったこと が判明・・・。 あらあらあら・・・ということに。 すずはすぐに周作に問うことはしませんが、周作には以前結婚したいと 思っていた人がいて、それがリンだと気づいてしまうんですよね。 りんどうの絵の茶碗から。 普段はぼんやりしてるすずなのにこういうところは女の勘が働くというか なかなか冴えてます。 リンの方もすずの名前を知ったときと周作の名前を聞いたときに気づいた 感じですね。 それでも周作が幸せであることを知ってリンも嬉しかったような。 周作も後でリンの姿を見かけ、彼女が笑っていたことから安心してます。 すずは知らなくてもよかったことなんでしょうけど知ってしまった以上は 知らないふりもできなくて。 それ以上の何があったわけでもないけれどすずとしては複雑ですよね。 が、そんなリンもまた戦争の犠牲に・・・ リンのことも好きだったけどすずとしては悲しい経験をします。 その後、幼なじみの水原がすずの家を訪ねてきて、これってどういう ことなんかなぁと思ったら、お互い思いを寄せているのだろうと察し たっぽい周作がすずを一晩水原に。 夫公認でなんてことするんだ!?ってとこですが、国のため戦地に赴く 水兵さんにせめてもの心遣い・・・ってことだったのか。 すずも水原に淡い恋心を抱いてたのは本当だろうし、でももう周作の嫁 となった今では周作のしたことに腹を立てて・・・ 水原も本当にすずのことを思ってたんでしょうね。 すずは周作のことが好きなんだ感じた水原はすずの気持ちを尊重。 ほんわかしてる雰囲気でありながらもそれなりの出来事が組み混まれ 現代とは違う恋愛事情に触れることに。 水原は帰らぬ人となるのですが、そうやって戦時中は多くの知人が亡く なっていくことが日常にあったんだろうなと思っていたら、この先に もっと悲劇が・・・ すずと手を繋いでいたはずの晴美が時限爆弾の被害に・・・ すずも右手を無くして・・・ ってこれにはもう絶句。 こんなことがすずの身に晴美の身に起きるなんて、想像もしてません でした。 娘を亡くした径子がすずに当たるのも仕方がないわと。 決してすずが悪いわけじゃ無いことくらいわかってるけど、親の気持ち の持って行き場がないのはよくわかる・・・。 お姑さんはみんなすずだけでも生きていてくれて良かったと思っている と声をかけてくれます。 自分の娘の悲しみも理解し、すずのことも考えてて。 お姑さんが大きい人なんですわ。 こんな出来事があっても乗り越えて生きていかなきゃいけないんだなと どれだけの辛いことを経験したら終わりになるんだろうと思ってしまい ましたね。 当時の人たちの強さは現代の私たちの想像をはるかに超えてますよね。 悲しいことだらけでもその中でも光を見つけて生きていく。 とはいえ、大好きな絵を描く右手を無くし、大好きな晴美を目の前で 亡くしたすずは、家事どころか自分のこともままならなくなり・・・ いくら朗らかなすずでも、耐えられる状況ではなくて。 これじゃもう周作のことが好きでも北條の家にはいられないよねっと 思ってたところに原爆投下。 畳みかけるように戦況は悪くなる一方。 呉は広島から20キロ離れていたようですが凄い地響きときのこ雲が見え たようです。 直接、原爆投下の光景が描かれているわけではありませんが広島から来た 人の状況や広島に行った人の話が間接的に。 すずの両親は亡くなりましたが、妹すみは生きていることが判明。 でも、原爆症に。 すずはすみのこともあるし広島に帰ることになると思われたのですが 径子が北條の家はすずの居場所だから嫌になったのでなければ居たい かどうかは自分で決めっと。 径子もすずがいることで無くしたものを考えなくてすむって。 径子もやっぱり晴美のことですずを責めてしまいましたがすずのことが 好きだし、もう家族だと思っているんでしょうね。 すずはこの言葉により自分の居場所は北條家だと残ることに。 きつい性格ですが、径子もやはり根は優しい人で泣けます。 なんか、もう、みんなで必死になって乗り越えていくしかないんだ、 それしかないんだってことなんでしょう。 ただ強いってだけでは片付けられない、悲しみに包まれているのが日常 だから、とにかく生きて、その中で幸せを見つけていく人々。 すずは終戦を経て周作に 「この世界の片隅にうちを見つけてくれてありがとう」と感謝をします。 が、握ったその手は周作のそれではなく他人という・・・ これだから(^^; この抜け具合がすずのかわいらしいところ。 そして広島からの帰り道にすずは一人の女の子に出会います。 彼女の無くした右手を母のそれと同じと感じ懐いてきた少女。 当たり前のように少女の手を取り連れて帰るすず。 周作もそれが当然と言わんばかりの表情で。 ここも泣けます。 戦争孤児を養女に引き取ったってことですよね。 晴美の服を引っ張りだしてる径子とか、北條の人も誰一人すずのした ことに反対するでなく、受け入れてて・・・ すずを初め、この北條家の人たちには救われます。 なんて温かいんでしょう。 色んなことが起きるけれど、戦時中という悲惨な状況下であっても 人はこうやって助け合って生きてきたんですね。 柔らかな雰囲気が漂い笑いがあり温もりがあり・・・ ああ・・・人はこうやって生の営みを続けていくんだなって。 奥の方から感動がこみ上げてきます。 素晴らしい作品です。 映画はみてませんが、きっとこの雰囲気をしっかり描いているのでは ないかと思われ・・・ だからこそ見た人がみな感動し格別だと評価しているのだと思います。 SNSで爆発的に人気が出たのは知ってましたが、もっと話題に上る ためにヒロイン役ののんさんだけでなく、人気声優陣を前に出したら 良いのにと思ったのですが、クラウドファンディングで資金調達した 作品ってことで厳しかったんですかね。 PVにもすず以外の声がほとんどなくて。 原作読んで素晴らしい作品だなと思っただけに声優ファンを巻き込まない のはもったいないし、若い人にこそ見てもらえたらっと思うんですけど。 敢えてそういう売り方だったんでしょうかね。 かなり巻き返しが見られたのはさすがだと思いますが、それでももっと 話題になってもいい作品だと思いますわ。 超オススメ!
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Last updated
2017年05月07日 02時10分38秒
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