幼年時代 (1967年) (旺文社文庫) 室生 犀星 (著)
書評を読んでも太宰治の文芸評論家さえ高く評価している。まさに読んで知る室生犀星のすばらしさ。最初に知ったのは実は浅野川倶楽部朗読会で医王山を聞いたとき、うだつの上がらない登記所に勤める主人公が辞表を書けと上司に言われ、5人家族の妻からはお金と名誉ある公務員だから辞めないでという板ばさみから,登山で死を覚悟してゆくが死にきれない。妻はほんとに帰ってよかった。ここに庶民文学の感情の機微を見ます。涙なくてこの物語は聞けなかった。今回或る少女の死までが高く推薦されていたので,読むが医王山ほどのインパクトが感じられない。3部作の残り幼年時代、性に目覚める頃、を読んで解説も読んで、犀星が受けた環境、養い親がなんと昼間から酒くらい、男なら大きくなって給金を貢がせ、女なら女郎屋に売り渡すために孤児を育てたという環境のすごさに、この小説は理想の家族を求めて書いている。お寺に養子になった後も腹違いの姉の結婚、再婚だがほんとに結婚かどうか小説には遊びに行ってもここに来るなと姉に言われている。性に目覚める頃はお賽銭泥棒の美しい娘に恋をし,親の金を盗んではなんと賽銭箱に戻して、事実を隠す。おまけに娘の家にまで行き,下駄をその娘の分身を慈しむように盗んでははっと気がつきまた戻す展開が書いてある。素晴らしい感情の表現、医王山のような父の感情表出が出たのと同じ、子供の感情が神経表出してぴりぴり感じるくらいです。或る女の死までは最初の居酒屋の事件、友だちが居酒屋で口汚い客と口論して,表で指してしまう。警察で調べられ,示談にした話が先にあり,後半の9歳の少女と遊ぶ内好きというか恋心が芽生え、金沢に帰った後娘が病死する。犀星の文学で小説と詩が載っている。この詩とぴったり合うのが或る少女の死まで。悼詩がいきている。あにいもうとは川の風景、魚をとる風景など自然描写がいい。これは3文豪ならいずれもいい。傑作は養母の若い頃を見立てて、好きな男にはらませられて,男をもとめて酒場勤めになり,そんな妹をはらませた男が家族の前で謝罪にくる。父の立場、兄の立場、喧嘩を売ってなごりつけた兄を,よくもすきな彼氏に傷つけてと妹が喧嘩するあたりが感情急展開して面白い。還暦になって地元文豪の小説を読んで感激した。もっと小学生には必須で読本配って読ますべきである。