蝉なんて子供の頃採りに行ったこともないし、飛んでる姿も見た記憶ないし、鳴き声を聞いて「あぁ夏だなぁ」と感じる程度の遠い存在だったのに。
大人になって関東にきてから、私はヤツの本性を知ってしまった。
うちはマンションの7階で、目の前は公園になっており、大きな木もたくさん生えている。
なので今の時期はヤツらの大合唱を毎日聞かされている。
数日前、ひときわ大きな鳴き声が聞こえた。
嫌な予感。
ヤツがやってきた。
ヤツらは死に場所を選ばない。
道路の真ん中や店先や、あげくの果てにはうちのベランダでさえも息絶えようとする。
なぜに卵を産むときは土を求めるのに、死ぬときは土を求めない?
もしかしたら、ヤツらはいきなりとんでもない苦しみに襲われて、狂って飛び回り、行き倒れるのだろうか?
それにしても普段生活している木よりもずっと高い、この7階までこなくたっていいのに。
仰向けになって動かないヤツ。
しかしここで油断してはいけない。
弱りながらもヤツは最後の力を振り絞って、鳴いたり羽ばたこうとする。
それが突然なものだから、こちらとしては非常にびっくりする。
ベランダに放置して2日後、そろそろご臨終を迎えたかと思って、遺体を処理しようと触ると、急に動き出してこちらを驚かす。
ヤツらの命は7日間と聞いたことがあるが、それは完全に息絶えるまでの時間なのだろうか?
木を離れてから3日は生きてるぞ。
それともこの状態は脳死のようなものなのか?
とにかくうかつに手を出すとこちらの寿命が縮むので、ヤツが安らかに眠るまではそっとしておかなければならない。
しかし、ベランダに出るたびに、瀕死のヤツが目に入る。
お腹とか気持ち悪い。
ゴキブリに負けず劣らずの見てくれだ。
いやゴキブリはすぐに視界から消えてくれるけど、こいつはここから動かない。
あーー、いやだ。
今も1匹ベランダにいる。
あと1.2日はおいとかなければならないだろう。
蝉、だいっきらい。