苦しみと喜び
一度、化学的流産を経験しました。医学的には、流産にははいらないそうだけど。私達夫婦にとっては、それは想像も出来ないほどの深い暗い闇でした。救急でかかった病院の廊下で、冷たい言葉を話す医師。ソファに腰掛けたまま動けずにそれを聞く夫。出血しながら、泣きながら夫の横に座る私。まるで、ドラマみたいだった。でも、もっと冷酷で暗かった。一生忘れられない。夫の祖父祖母の眠っているお寺に行って、二人で手握って階段を上った。のぼりながら、どんどん涙が溢れた。二人で泣きながら、手を合わせた。ごめんね。ひいおじいちゃんと、ひいおばあちゃんがいるから淋しくないよね。ごめんね。そう言った。社内恋愛で結婚したし、流産も会社の人には知れ渡っていたので・・・。結婚式後は、夫は会社のいろんなひとに『子供はまだ?』『えりの体はもういいんでしょ?』と言われていたようでした。(妊娠後知りました)一度は思いがけず簡単に妊娠したのに、次はなかなか妊娠しない。後から結婚した人が、妊娠していく。結婚していない人が、妊娠していく。うちには、子供が来てくれない。なぜ??神を信じない夫が、私の買った子供を授けてくれるというお守りを毎日握って寝ていた。京都に行く両親に、子供が出来ますように・・と祈願してきてくれるようにお願いした。毎日基礎体温も計った。でも、思うようにはなかなかいかなくて。他人の妊娠に嫉妬して、泣いて。子供が万が一出来なかったら、どうするか夫と話し合って。みんなに背中を押してもらって・・・。病院に行って。すっごく運がよく妊娠できた。最初はまた流産しないか毎日が不安で。出血してからは、毎日泣いた。心拍が確認できたときは、人目も気にせず泣いた。お礼と報告に、それぞれの祖父のお墓に行った。つわりで何も食べられなくて、つらかった。胎動が少なくて、不安になる日もある。マタニティブルーで、夫に八つ当たりする日もある。でも、夫と話すんです。妊娠できなかった、あの頃に比べれば洋服を着替えるだけで苦しくなることも、ゆっくりしか歩けないことも、すぐにお腹が張ることも、気分が落ち込むことも、今のほうが苦しくないよね。って。だから、頑張らなくちゃいけないんだよね。って。夫は、言います。『本当にあの頃は辛かった。』夫を父親にしてあげられない苦しみもあったけど。夫も、一緒になって苦しんでいてくれたこと。改めて、ありがたいし幸せなことだなって思います。あのときからずっと。一緒に一喜一憂してきた。私が妊娠しているんだけど。夫と妊娠していると、思える。毎日コロコロ変わる気持ちに、もしかしたらお腹の中で不安になってるかもしれない娘。ごめんね。甘ったれのわがままな母で。どんな気持ちのときも、本当はちゃんと愛しているからね。一緒に生きて行こうね。