映画『隠し剣 鬼の爪』を観て
【この映画について】この作品は「たそがれ清兵衛」を撮った山田洋二監督が同じスタッフで、再び時代劇に挑んだものである。「たそがれ…」はアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた作品で、私は残念ながら見逃してしまった。今回の作品も江戸後期が舞台で、海阪藩という庄内(山形県)地方での平侍と、かつて奉公していた娘との純愛を絡めた話だ。主演は永瀬正敏で、恋人役は松たかこが演じる。その他、永瀬とはかつて同じ師匠の下で剣の腕を磨いた小沢征悦、永瀬の友人に吉岡秀隆。ベテラン俳優の緒方拳、小林稔侍、倍賞千恵子、田中邦衛、高島礼子、田畑智子なども出る中々豪華なキャストである。【ストーリー(ネタバレなし)】時代は幕末で舞台は東北の庄内の海阪藩。下級藩士片桐(永瀬)は、かつて奉公していたきえ(松)と偶然街中の小物問屋で3年ぶりに再会した。きえは、油問屋に嫁入りしたものの体調を崩していたと力なく答えてさった。その際に表情に精彩がないのを気にした片桐は、後日義弟の島田(吉岡)と2人で強引に乗り込んできえを連れ去ってしまう。片桐の下で養生したきえは何とか元気を取り戻し、周囲にもホッとした空気が漂ってきた。きえは片桐を好いているし片桐もきえを好きだが、お互いそのことは最後まで告白出来ないでいた。そんな片桐に、江戸屋敷で謀反の罪で捕らわれたかつての仲間の狭間(小沢)と通じている仲間の名前を言えと家老の堀(緒方)に詰め寄られる。だがかつての仲間を裏切りたくない一心で断った。そうこうしているうちにその狭間が座敷牢を抜け出した。堀は片桐に狭間を探し出して斬れと命ずるが、葛藤しながらも片桐は狭間を探し出して斬った。そこにはかつて同じ師匠の下で剣術を教わったもの同士の激しい嫉妬が渦巻いていた。かつての共通の師匠である戸田の下を訪ねて、片桐は狭間打倒の秘策を携えての結果だった。狭間はその策が「隠し剣 鬼の爪」だと信じていたが…。実は狭間の妻は、夫の命乞いの為に堀の下を訪ねていたが逆に堀は甘い言葉で誘惑して狭間の妻を手篭めにしていた。あとからこの事実を知った片桐は激しい怒りを堀にぶつけたが、堀も逆に片桐をなじった。今度はこの堀に対する復讐心に燃える片桐は、城内で堀を討つ機会を伺っていた。そしてついに師匠戸田から狭間を差し置いて授かった「隠し剣 鬼の爪」を使うときがやって来た。果たして片桐は堀をその剣で討つことが出来るのか?そして「鬼の爪」とは一体何なのかは映画館で観てください。その後の片桐ときえの2人の恋の行方も気になるが、この2人の会話のキーワードはきえの「それは旦那さんの命令ですか?」にある。この言葉が度々出てくるから注意して観ていて欲しい。【鑑賞後の感想】山田洋二監督が再び挑んだ幕末を背景にした時代劇だが、ここではありふれた「新撰組」とか「薩長の戦い」とかがテーマでは一切ない。永瀬と松の身分の違いを超えた恋の行方と、藩で一緒に西洋の砲術を学んだ吉岡とその家族との絆、剣の腕前を共に磨いた小沢との関係、平侍として実力者の家老とのやりとりと苦悩、こうした要素を上手く絡めて一つの作品に仕立てた感じがする。タイトルの「隠し剣 鬼の爪」とは何ぞや?これをいかにもそれらしく伝授するシーンがあるが、実はそれは鬼の爪ではない。最後の最後である家老を倒す為にそれをぬくいことになるのだが、果たしてこれは上手くいったのか?幕末という近代日本への夜明けの時代と、日本人独特の人間性や当時の時代感が見事に描かれている。俳優たちも実力者揃いで好感が持てるが、松たかこは余り時代劇の香りがしない女優なので、この辺の解釈は難しいところだ。