◇ 1月18日(日曜日); 旧師走二十三日 癸亥(みずのと い); 下弦の月、初観音
1月13日のブログに巣鴨のカレーうどんに触れたので、続きを書いてみる。
今年のお正月の2日に地蔵詣でを兼ねて食べに行ったのだが、この日は早稲田の穴八幡宮に先ず詣でた。一陽来復のお札をいただいた後、思い立って早稲田から都電に乗って行った。多分穴八幡宮から刺抜き地蔵に行くには都電で行くのが一番便利だと思う。
そこで、先ず都電について書いてみよう。
東京の都電は、明治15年(1882)に新橋~日本橋間に鉄道馬車が走るようになったのを起源とする。その後地面に軌道が敷設され、路面電車となったのが明治36年(1903)。明治28年(1895)にわが国最初の路面電車が走った京都市に遅れること8年だった。
その後都電(当時は東京市だったから、正しくは市電)はどんどん路線を拡張して、漱石の没年(大正五年=1916)の頃には営業キロ数は130キロを超え、東京の街中を縦横に走っていたようだ。
時代が下るにつれ、道路の渋滞を酷くするとか、架線が美観を損なうし邪魔だ、採算が取れない、などと散々邪険にされるようになって、どんどん廃止の憂き目に会ったのは、日本の他の町と同様である。
とうとう昭和47年(1972)に、荒川線のみを残して東京の町からは路面電車が消えた。現在は早稲田から三ノ輪橋までの12.2キロメートル、一路線だけが残っている。
都電の魅力の第一は、その駅名だ。駅じゃないな、路面電車の場合には停留所と云わなければ。
早稲田→面影橋→学習院下→鬼子母神前→都電雑司が谷→東池袋4丁目→向原→大塚→巣鴨新田→庚申塚→新庚申塚→西ヶ原4丁目→滝野川1丁目→飛鳥山→王子駅前→栄町→梶原→荒川車庫前→荒川遊園地前→小台→宮ノ前→熊野前→東尾久3丁目→町屋2丁目→町屋駅前→荒川7丁目→荒川2丁目→荒川区役所前→荒川一中前→三ノ輪橋、と30もの停留所がある。
つまりは、停留所の平均間隔は420メートルほどだ。普通に歩いても苦にならないところに次の停留所があるのだから、本当に「足代わりに乗れる」事が良くわかる。停留所も今のような車社会になる前に、ちょっと用があって人々が良く出かける先を基準にして、設置されたのであろう。以前の庶民の生活が忍ばれて風情が有るのだ。
もう一つの魅力はその料金だ。全線一律大人160円(小人はその半額)の均一料金なのだ。都電には一日乗車券というのも有って、その日の内ならば、大人400円で何度でも好きな停留所で乗り降りできる。よそ様が暮らしていらっしゃる家の軒をかすめるようにゴトゴト走って行くのは心地よいものだし、何より廉い。乗っている人もゆったりしていて、何となく気さくに声をかけられそうな雰囲気だ。
郷里の岐阜市にもかつては市電が有って、徹明町、千手堂前、稲葉、長住町、忠節橋、鵜飼屋、神田町、柳ヶ瀬、北一色など、母などは待ち合わせの場所の目印を停留所にしていた。これらの懐かしい名前は未だ頭に残っているが、岐阜の市電は平成17年(2005)に、惜しいことに全廃されてしまった。
今はエコ社会がはやりということで、路面電車のような地域密着型の公共交通機関が見直されている。特にドイツでは力を入れていて、数多くの町で路面電車を見る(乗る)事ができる。ひょいと乗れて、適当に思い付いたところでひょいと降りられる気軽さは何処でも同じだ。
ちょっと思い付いて調べてみたら、わが国では北は札幌市から南は鹿児島市に至るまで、21地区62路線の路面電車が健在である。もう片手の指に余る程度の町にしか残っていないかと思っていたが、意外に多くて嬉しくなった。わが国でも、エコロジーを口実にしても、大義名分にしても良いから、今走っている路面電車は残して欲しいし、願わくば高齢者対策としても新路線を増やして貰いたいものだ。その際には是非均一料金や、一日乗車券なども採用してもらうとともに、停留所の名前も昔から暮らしている人達に懐かしいものにして欲しいと思う。
さて、巣鴨のカレーうどん。
穴八幡から早稲田大学図書館の脇を抜けて、新目白通に出るともうすぐ其処が都電の早稲田停留所だ。都電は日中5~6分おきに走っているから、発車時刻など特に気にする必要は無い。やってきた電車に乗って入り口で160円也を払う。電車が走り出せば九つ目の停留所が庚申塚である。乗っている時間は高々17分。
庚申塚停留所で降りて進行方向すぐの踏切を右へ折れれば、巣鴨地蔵商店街筋に入る。これは旧中山道だ。この町筋を道なりに歩いていけばやがて白山通りに出て巣鴨駅に出られる。
とげ抜き地蔵は、その途中の左手にある。正式には萬頂山高岩寺といい、曹洞宗のお寺だ。ご本尊は延命地蔵尊である。とげ抜き地蔵という名の由来は、昔毛利大名家の女中が誤って縫い針を呑み込んでしまったのを、このお地蔵様の御影(地蔵尊を描いた紙切れ)を呑んだら針が出てきたという話にあるという。
境内に入ると左手の露天に仏像があって、大勢の人々がこれに柄杓ですくった水をかけている。これは洗い観音といって、観音様の体の、自分の体の具合の悪いところと同じ場所に水をかけたり、濡れ手拭でこすったりすると、それが治るのだそうだ。
僕が行った時には、ご本尊の鎮座する本堂より観音様の方が人気で、大変な行列だった。どうもこれをとげ抜き地蔵だと勘違いされていらっしゃる方が多いようだ。ご本尊のお地蔵様は秘仏として本堂の奥に隠れて姿をお見せにならない。
さて、件のおうどん屋さんは、庚申塚から来ると高岩寺の手前、お寺の築地塀に沿った路地を左手に入ったすぐの鮨屋の隣にある。時分時だと行列ができるほど人気がある店だからすぐに分かる。屋号は古奈屋。近年改装したようで、随分小奇麗な感じになった。手狭な店で十数人がカウンターに並べばもう満員である。人気がある店だから行列ができる。それがお寺の塀沿いにずらっと並んで、お行儀良く順番にお待ちになっている。それが目印になる。
メニューは基本的にカレーうどん一品(今回行ったらカレー雑炊などというのも有ったが)。それに天ぷらや揚げ餅などを注文でトッピングする。基本となるカレー(素)うどんは一杯1050円で、天ぷらなどを乗せると1500円とか1600円位になるから、うどんとしては決して廉いとは云えない。
うどんには、甘酢生姜と発芽玄米ご飯の小さな塊りが付いて来る。ご飯は「うどんを食べ終わったら最後に丼に入れて雑炊として召し上がってください。」という。
カレーは柔らかな味でうどんに良く合い美味しい。うどんも細めで、全体として中々上品な感じだ。見ていると注文が入るたびに、大鍋から人数分のカレールーを小鍋に移しては味を調えて作っている。天ぷらもその都度揚げている。量も適当で、お客は皆押しなべて黙々と食べでは、外の行列に並んだ人と入れ替わって帰って行く。平均滞留時間は恐らく20分以内。中々の繁盛で、ご同慶の至りだ。
以前はこの巣鴨のお店だけだったのが、今では池袋の東武デパート、横浜のランドマークタワー、六本木ヒルズ、神楽坂などにも支店を出しているそうだ。この秋には兵庫県西ノ宮の阪急デパートにも出店の予定だそうだ。
カレーうどんもB級グルメ食品に分類したい食べ物だから、六本木ヒルズに相応しいかどうかちょっと疑問があるが、うどんの本場でうるさ方の大勢いらっしゃる関西の地で古奈屋のカレーうどんが、その味と値段でどう受け止められるかは興味がある。
何れにしろ、「とげ抜き地蔵脇のカレーうどん」は知る人ぞ知る名物だし、美味しいのは間違いは無いから、地蔵詣での折には一度はいらしてもよろしいと思う。