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マックの文弊録

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2010.08.21
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☆ 8月21日(土曜日) 旧七月十二日 辛丑(みずのと う) 赤口:

ちゃんとした本屋に行くのはうれしい。
私のお気に入りは、丸の内の丸善本店と、池袋の駅の外れにあるジュンク堂本店だ。どちらの本屋も複数のフロアにまたがり、文字通り山ほど沢山の本が揃えてある。
ジュンク堂は8階建てのビル全部が書店で、8階の語学・参考書のフロアから、7階の理工学書、医学書、経済・法学書、人文書、文芸書・・・と続き、1階には精算用の総合レジが並ぶ。(地下にも何か並んでいるが、此処は行った事がない。)レジは1階にしかなく、各フロアはひたすら本を探し、立ち読み(椅子も置いてある)する場所である。いつ行ってもレジの前には人の列が出来ており、それを見ればまだまだ書籍文化は健在であるとほっとする。

東京は日本の政治・文化の中心地だとされているから、方々にちゃんとした本屋があるかといえば、それがそうでもない。大きな駅の構内や、私鉄の駅の駅頭には大抵本屋があるが、そういう本屋は通りすがりに立ち寄る本屋で、そういう人たちに向けての品揃えしかしてない。つまり、コミック本や、新刊の文庫本、話題になった小説の単行本、社会や政治(のウラ話)を暴き、バイアスの一杯かかった自説を売り込もうとする「プロパガンダ本」、別にどうでもいいようなことに関しての「教育・教訓本」・・・。
こういう本屋は時間潰し用の本を買うために立ち寄るのがせいぜいである。

丸善本店や、ジュンク堂のような規模の本屋に行けば、書物の中を徘徊できるという楽しみがある。先日ジュンク堂に行って、(暇だったし、何となく心寂しかったので)普段は行かない書架を巡って歩いた。
獣医学と表示された書架には、「小動物の外科手術法」とか「伴侶動物の救命救急法」、「小動物の神経症大全」などと言う本が並んでいる。皆堂々とした分厚い専門書である。
別の書架へ行くと、「秩父の山林の野鳥」とか「埼玉県の地質的基礎」などがある。
更には、「日本のトンボのすべて」という本の隣に「赤トンボのすべて」という本が並んでおり、「赤トンボ・・・」の方が分厚くて立派で可笑しい。

こういう本の著者は、自分の著作が多くの読者に読まれることを期待しながら一生懸命に原稿を書いたのであろう。書架に並んだ本たちは、私が手に取ると「この人は読んでくれるのだろうか」と、密やかな期待のオーラを送りつけて来るように思える。

私は結局こういう本たちを買って読むことはないだろう。気まぐれに本を手にして、ぱらぱらと頁を繰るしかしないだろう。そうして本を書架に戻すと、何となく本の緊張が解けて、ホッという溜息が聞こえてくるようだ。しかし、刹那のそして恐らくは一期一会の邂逅を通じて、本とその後ろにいる著者の「気」に触れることが出来たような気持になるのだ。
ちゃんとした本屋にはそういう楽しみがある。

先日は7階にある理工学書のフロアを中心に徘徊した。
デイラックの「量子力学」そしたらそこの平積みのコーナーにディラックの「量子力学」を見つけて驚いた。発行元は岩波書店である。これは、朝永先生や、玉木、木庭先生などの翻訳による、P.A.M. Dirac著「量子力学 原書第4版」 の復刻版であった。オリジナルの日本での出版は1968年(昭和43年)である。
私は大学時代、生意気にも出版早々にこの本を買ってきて、独りで苦労しながら読んでいたのだ。内容は勿論高度なものであったが、有名なブラケット記法は美しく、ややこしくも複雑な解析中心の本と較べて、思いのほかすんなりと頭に落ち着いたような気がして(あくまでも「気がした」だけだったと思うが)、読んでいるのが楽しかった。そして、誤植(計算ミスではないと思う。単なる誤植であったろうと思う。)がやたらと沢山あって、それを見つけてほくそ笑むという楽しみもあった。
そうか、こういう本が復刻されるのか。

それで、ふと思いついて一階上の語学コーナーに行ってみた。
そうしたら有ったあった!
山貞の「新々英文解釈研究」「英文解釈」と表示された書架に、研究社の『新々英文解釈研究』が並んでいるのを見つけたのである。私達はこの本を「ヤマテー」と呼んでいた。著者は山崎貞氏なのだ。
先日同期会の集まりで、我が高校の英語教育の水準は凄かったという話になり、最近その「ヤマテー」が復刻されたのだということを誰かが言っていた。その本がちゃんと並んでいたのだ。
「ヤマテー」の新々英文解釈研究は全部で112節に分かれており、それぞれに特徴的な英語の構文が合計で約千ほど掲げてある。
私の卒業した高校では、この本を教材にして、正規の授業ではなく課外で勉強させ、定期的に試験を課していたのだ。要するに丸暗記させたのである。
しかし、丸暗記というものが苦手で大嫌いだった私にも、ヤマテーだけは面白かった。掲げてある例文は教科書に載っているような無味乾燥なそれではなく、それぞれに如何にも英語らしい(と私は勝手に感じていたのだ)ものばかりで、暗記の課題としてよりもむしろ生きた英語表現として読んで楽しむことができたのだ。

書架に数冊並んだヤマテーの内一冊だけが、閲覧用としてビニールの封印がかけられていない。(他のヤマテーは、すべて透明なビニールで丁寧に包み、封印してある。)それを手にとってパラパラめくってみると、懐かしい例文がどんどん出てくる。He is an oyster of a man.  She is an angel of wife. ・・・・そう、この文、あったあった。そして、What is learned in the cradle is carried to the grave. そうそう、これもちゃんと覚えている。まさに「三つ子の魂百まで」だ。

新々英文解釈研究は、1925(大正14)年の初版発行である。それを我が校は1960年頃から課外教材として採用していたようだから、もうその頃でもこの本は発行後30年以上経過した、参考書の古典だったはずだ。

記憶の連鎖は続く。
当時の我々にとってはもう一つの英語の課外教材があった。「マメタン」である。通称「赤尾の豆単」と呼ばれたこの本は、旺文社から出ていた「英語基本単語熟語集」(これは通常の単行本の大きさの本で「オヤタン(親単)」と呼ばれていた)の小型版で、初版発行はこれも古く、1942年(昭和17年)である。
昭和17年といえば、日本は既に鬼畜米英を相手の戦争中だったはずだが、その頃は未だ学生は英語を勉強することが許されていたのだろうか?

赤尾の「豆単」「マメタン」は文庫本の半分くらいの大きさで、表紙は赤いビニール装だった。頁を開くと、a、 abandon、 abbot、 abbreviate、 abdomen、 abduct、 ・・・・・ abyss、と続く(未だちゃんと覚えている)。我々はこのマメタンの指定された範囲の頁を暗記させられ、毎日授業の始まる前にテストを課せられたのだ。
当時の我が高校の生徒は、いつもどこでもこのマメタンを持ち歩いていた。通学のバスの中で赤表紙のマメタンを開いている学生がいれば、それは間違いなく我が高校の生徒だったのだ。
黒っぽい制服姿の高校生が、一様に赤い分厚い手帳様の本に首を突っ込んでいるのは、思えば異様な光景である。同じバスに乗り合わせる他校の生徒(我が校と長良川を挟んで反対側には、二つの高校があり、その内の一校は可憐にして美しい女生徒が沢山いるのが有名で、我が校の男子生徒の垂涎の的であったのだが)からは、一種の侮蔑と顰蹙を買っていたようだ。まぁ、今でいえば絵に描いたようなガリベン風体がウザッタかったのでしょうな。

紅衛兵の「豆単」毛主席語録その後1966年(昭和41年)になって、我が校の「マメタン伝統」は中国共産党に注目されるところとなり、「毛主席語録」として数多の紅衛兵の必携品となったのは、有名である。(嘘です)
ただし、マメタンの方は絶版にはならず、今も旺文社から後継本が継続出版されているようだ。

単なる暗記本であったマメタンはさておき、今回ディラックの量子力学とヤマテーの復刻版にジュンク堂で出会うことが出来たのは、大いに懐かしかった。ただしディラックの復刻本は6千円、ヤマテーの方は3千円と高い!(どちらも税別価格)どちらも、こんなに高い本ではなかったはずだ。だから私も懐かしくは有ったが、購入するところまではいかなかった。
この本たちも、私が書架に戻したときには、緊張が解けてホッと溜息を漏らしたことだろう。

私は今後もちゃんとした本屋に徘徊しに出かけていくつもりでいる。





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最終更新日  2010.08.21 15:55:17
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