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こんにちは、資料館です。 いよいよ、「笹子自然遊歩道」の最終回です。 今回は「笹子峠の矢立のスギ」にまつわる伝え話の真偽について科学的に考察してみます。 一つ目は、「岩殿山で国見れば国恋し矢立の杉が見え候」です。 この歌は、岩殿山の城番として国中地方から派遣された武田の武士が、望郷の念にかられて詠んだものとされています。 その武士の心情を察するに余りありますが、ここで問題としたいのは果たして岩殿山山頂から矢立のスギは見えるのだろうか、ということです。 国土地理院の地理院地図(電子国土Web)を使って検証してみましょう。 画面は広い方が良いので、なるべくスマホでなく、パソコンを使用してください。 まずは、ここを開いてみましょう。 矢立のスギ付近が表示されるはずです。 画面をドラッグすると、地図の表示範囲も変わります。 左下のズームバーをスライドさせて、岩殿山と矢立のスギが同一画面に表示されるようにします。 次に上のメニューの「ツール」をクリックし、右側に表示される「断面図」をクリックします。 操作方法のウインドウが開きますが、邪魔ですので、最小化ボタン「-」をクリックします。 この時終了ボタン「×」をクリックすると、断面図のプログラムも終了してしまいますので注意してください。 「矢立のスギ」をクリックし、マウスカーソルを移動させると点線が伸びていきます。 そのまま、「岩殿山山頂」まで伸ばしてダブルクリックすると直線に変わり、しばらくたつと断面図が生成されます。 縦横比を調整して見やすくしてみましょう。 次のグラフが、矢立のスギから岩殿山山頂までの断面図です。 赤線で、スギと山頂を結びました。 横軸をみると、直線距離でおよそ約15kmの離れていることがわかります。 断面図なので、この間に何もなければ見通せることになります。 しかし、岩殿山山頂から5km地点あたりから、尾根の張り出しにかかるようになり、7.5km地点からは完全に赤線を越えています。 このことから、「岩殿山の山頂からは矢立のスギは見えない」ことが証明されました。 二つ目は、強弓の使い手である源為朝が滝子山山頂から矢を放ち矢立のスギに命中させたという伝説。 同じ要領で、断面図を作ったのがこちらです。 やはり、途中に高い部分があるため、見通すことはできません。 しかし、だからといって命中しなかったとは言い切れません。 なぜなら、矢は放物線を描いて飛ぶからです。 たとえ見通しがきかなくても、風を読み、方向と射出角さえ合っていれば命中します。 だとしても、滝子山山頂から矢立のスギまで距離は約6kmもあるのでいくら強弓の名手といえども物理的に不可能と言わざるを得ません。 以上、二つの伝え話は、事実にもとづくものではなく、「作り話」であることが、「科学的」に証明されました。 事実と違えるとはいえ、この2つの「作り話」に価値がないわけではありません。 昔から語り継がれてきた言葉(話)には、人々の願いや人々への警鐘などが込められています。 肉眼では決して見えないスギが心の眼では見えた武士の心情や、物理的に不可能な距離にあるスギを射ぬく源為朝に寄せる人々の思いなど、多面的多角的にとらえて、その意図するところを考えてみてください。 次回は、過去記事「指差し地蔵」の続編です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024年09月08日 10時39分01秒
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