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カテゴリ:イスタンブールで人と会う
【10月7日・金曜日】 「あああ、シャファックさ~ん!」 「はい、シャファックです、こんにちわ」 色白で可愛い顔をしたその青年は、メフテル軍楽隊の補助隊員(メフテル軍楽隊員とともにコンサートに出演する)のバイラクタル(旗手)、トゥージュ(トゥーという、長い指し物を捧げ持つ役目をする)、鎖帷子をまとった護衛兵、キョスゼンに従う歩兵などの役目をする、義務兵役中の青年達の1人、シャファック君だった。 「デミル曹長とご一緒でしたので、声をかけては失礼と思い、いまお一人になったのでご挨拶をしたかったのです。このところ、何度か続けていらしてますね」 「ええ、コンサートが見たくて来るのだけど、何かとほかの用事もあってねえ。あなたはどこに行くの、シャファックさん」 「はい、同僚の1人が具合悪くて入院していますので、みんなで交替に朝まで看護に行くのです。今日は私が当番です。」 「そうなの~。ゲチミッシュ・オルスン。病院はどこ?」 「ギュムッシュスユです」 「ああ、あそこに陸軍病院があるわね。ここからどう行くの?」 「歩いて行きます」 私はタクシーに乗るのをやめて彼と話をしながらタキシム広場までの2キロ余りを歩いた。エルマダー交差点で別れるまで、彼は私の歩行速度に合わせて、長い足を小幅に運んでくれていた。道々、エーゲ海に近い彼の故郷のこと、週に一度、月曜か火曜に休みが貰えて、兵役仲間とイスタンブールの市街地に出かけるのが楽しみであることなど、嬉しそうに語るのを聞いて、私も彼と出会えてよかった、と思った。 ニネジイム(おばあちゃん)、はい、ポーズ。道端で孫息子の一人と出会った私。 交差点で別れる時に、「じゃあ、お友達にもゲチミッシュ・オルスン(お大事に)と伝えてね、シャファックさん」と言うと、彼はきりっとした顔に戻って「はいっ、伝えます。ありがとうございました。」と姿勢を糺して答えた。 「あなたにもコライ・ゲルシン(お役目がうまく行きますように)」 彼はうなずき、もう一度丁寧に礼を言って交差点を渡って行った。 時計を見るともう5時半を過ぎようとしている。私は今日、ワカさんとわが家で会うことになっていた。手打ちうどんでもてなすつもりで、家を出る前に生地を練って寝かせてあるので、家に到着して猫に餌をやってからでも十分間に合うだろう、と思いながらスラセルビレル通りに入るとすぐ、ドネルケバブ屋の並んでいる辺りで、後ろから「加瀬さ~ん」と誰かが呼んだ。 あらあら、今日はよく呼び止められる日だ、と思いながら振り返るとワカさんだった。しまった、また夕飯が出来ていないうちにお客さんが到着だ~。 一緒に近道の急坂を下り、途中でワカさんが「加瀬さん、ちょっと待って。お土産買うから」とバッカル(トルコ・コンビニ)でビールと落花生を買ってくれた。 さて、そのあとは、チャンチャンチャカチャカチャンチャンチャカチャカ・・・ パスタマシーンの調子が悪く、ヒモカワうどんがすかっと切れなくて手を焼いたが、何とか、茹でて見ると腰のあるうどんが出来あがり面目を施した。普通の煮込みうどんにしてもいいのだが、朝のうちから「としお麺」の味噌も作ってあるので、つゆのあるうどんはまた後日、と言うことにしてやっと席に着いた。 今日はワカさんに就職先が決まったので、今度こそ「芽が出るように」と、としお麺のほかに、たっぷりの緑豆もやしと挽き肉を煮て玉子とじも作った。 あわててお膳の用意をしたために、朝のうちに作っておいたヒジキの煮物を鍋から出すのを忘れてしまったが、就職を祝ってお持たせのビールで乾杯し、ワカさんの健闘を祈った。 「加瀬さん、腰があってすごく美味しいです。 トルコに来て手打ちうどんなんて初めてかも・・・」 ワカさんとツーショット。ビールが美味しいです。 わずか半年ちょっとの間にワカさんの味わった天国と地獄は、みんなも多かれ少なかれ同じような状況で、勤め先の倒産や閉店、そして失職などに見舞われているわけである。今のトルコが今までとは全く違う状態に置かれてしまっていることを、みんなが肌身に感じる日々が続いているのだった。 その中でも互いに励まし合って行かれる友人の存在は大切なのだった。 「でも、失業したお陰で加瀬さんと親しくお話し出来るようになって、何が幸いするか分からないものです」とワカさんは常々言ってくれる。 まあ、非力な私が何の役に立てるわけでもないが、こうして手打ちうどんなどを一緒に食べているだけでも、喜んでくれる人がいることで、私もまた、ワカさんにエネルギーを掻き立てて貰っているような気がするのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016年10月17日 23時31分52秒
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