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カテゴリ:ムックきのこクラブ
朝まだきの磐船神社でみそめた紅い傘の紅茸(上)は、人間でいえば60歳前の本人は頑張っているつもりだが、周りからはだんだんいたわられるようになっているもっとも難しい時代のもので、すでにタイプとしての形態の殆どを失っている。 きのこの同定のむずかしさはチェックポイントが極度に少なく、基物より頭をもたげ、傘を開き、土に還るまでの1日~3日の間に人間の90歳くらいまでのステージを一挙に推移することによる。 傘の赤いベニタケの中で、私が向き合っているこのきのこ「(あなた)は一体全体どなた?」という問いかけはキノコを愛する人たちにとっては共通の思いであろう。 このきのこが何であるかを見極めたい最も切実な思いをもった人はきのこ好きの人だ。なぜなら恋するにしても、契りをかわすにしても、名前が分からなければ、<私の恋人・モナム―>とはなりえないからである。 しかし、きのこを産業としてあるいは科学的に応用したい人たちはすでに肉眼でこのきのこの種名が何であるかなんてどうでもよいレベルに達している。 僕が日本産きのこの戸籍調べをはじめてまもなく、J-FAS日本キノコ協会をつくる動機となったネイチャ―誌の分子生物学によるきのこの同定記事が出たことは僕にとって衝撃的な事件だった訳だ。まもなく光学系の顕微鏡や電子顕微鏡もすっ飛ばしてDNA配列できのこを同定する方法が確立される。僕は、きのこを研究する王道は微生物学としてきのこを極めることしかないと思う人間だったから、なおさらのことである。当然、今僕がやっていること、これから皆を巻き込んでやろうとしていることが、すべて水泡に帰す時代が目の前まできている時に、裸眼でのきのこ同定がどれほどの意味をもつのかを悩みに悩んだ末、Fries-Saccard方式の人為分類のきのこ同定は趣味の世界で残そう、そしてアマチュアは微生物学としての菌類学を文化面で支援し側面から支えることに徹しようと呼びかけてアマチュアの分類学としてのグループきのこ星雲を発展的に解消し、スーパーきのこの研究の基礎をつくる活動に方向転換するためにJ-FAS日本キノコ協会を発足させたのだった。きのこ分類学への貢献ではなく、きのこ文化の充実がその究極の目的だった。 しかし、それは時代に余りに先行しすぎていたため、会員も周りの人たちも僕たちのすること、なすことは、すべて?(はてな)マークの連続だったのは当然といえば当然であった。今でも、そうしたアナクロチックな自家中毒状態に憧れる人たちがごまんと居て、「菌学のため」なんて誰も喜ばないことに奔走しているのを見るにつけ、もう25年も面倒をみてきたのでそうした人たちと別れを告げて、そろそろ僕の本題に邁進してもきのこの神様は許してくれるだろうと考えたのがここ数年前のことである。以来ぼつぼつ準備してきて全く異次元世界へ足を踏み入れつつあるのが現状だ。 ただ、目下「MOOKきのこ」誌が流布の後、登場してきたアート系、女子系きのこ愛好家たちは、こちらはこちらで問題があり、実際にきのこの生息している現場に立ち会い、その生きざまの多様性に感動して徐々にきのこを好きになったのではないので、彼や彼女の造形のイメージの源泉となる核が育ってきていない。そこで、そんな人たちの<きのこ愛>養成機関として、ムックきのこクラブは本当の意味で「きのこを学び、きのこに学ぶ」林間サロンとしてこれからもきのことの出会いの楽しみを満喫する集いとなろう。閑話休題。さて、このきのこ(上)は何でしょう。写真でみただけでこれが分かればあなたは即刻、きのこ鑑定士になれます。泉鏡花が愛したベニタケといっても一日ハイキングをして出会う傘の赤いベニタケは多くて10種、少なくとも1-2種は見かけます。これらすべてはお団子を縦と横にふたつ積み上げて傘に彩色しただけのツバもツボもないもので、きのこ大好きなんていっている御仁もお手上げ状態のはず。 このきのこ同定の決め手は (1)これだけお年を召してなお柄もヒダも白いということ。 (2)傘のヘリに不明瞭ながら溝線がみとめられること。傘の色は褪せてはいてもベニ色を残していること。 (3)僕は愛人ならいざ知らずきのこ蠅の蛆が一杯のきのこの耳を噛んでみるなんてことはめったにしませんが、おそらく辛いでしょう。 これらから、えずくほど辛い(=emetica)ベニタケ(Russula)という学名をもつドクベニタケRussula emeticaであろうと御託宣が下りるのです。
さて、こちらのきのこ(上)は交野山への道半ばのせせらぎの小道の途中で出会ったものですが、こちらは、「いずれ天才か秀才か」と、人はいさ親たちだけは思っているであろう小学高学年くらいのベニタケです。こちらも人間同様、明日はどうなるかは分からない状態です。しかし、同じところに兄弟が数個体でていて、 (1)中型からやや大型になりそうな勢いであるのと、 (2)傘の表面は多湿であるにもかかわらず艶も粘性もなく、まさに桃の実が朽葉の間からのぞいていること、 (3)ヒダが淡いクリーム色を呈していること、柄は傘と似通った色を呈することなどから すみれ色の足(violeipes)をもつというケショウハツ Russula violeipes ではないかと思ってみるのです。 そしてこの種に特定するのに最も有力な特徴は匂いです。 (4)カブトムシ、あるいはコガネムシのような甲虫類のなんとも云えぬ腋臭のような臭いをもつことですが、僕はエッチではあっても紳士ですからそんな失礼なことは決してできません。ところが、同性のよしみでアリさんがさっさと近づいて「カブトムシの匂いがする」なんて暴露発言があったので、ケショウハツと言ってはみたものの、内心不安でいっぱいだった僕の同定能力もまんざらではなかったなと、ついさっきまでとはうって変わって有頂天になるのでした。 きのこの肉眼による同定なんておよそこんなものですから、人がOKといったって自分で納得しないかぎりキノコを喰うなんてことはよしたほうがよろしい。と僕は思っています。スーパーきのこ時代にもとめられるきのこ国際人はきのこを喰うより人を喰うキャラの持主であることのほうがよほど大切です。人を喰えない人間にきのこはわかりっこない。これが僕の四半世紀に亘ってきのこを見てきて到達した境地です。どうぞお忘れなく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013年07月18日 18時37分01秒
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