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カテゴリ:ムックきのこクラブ
泉鏡花の愛したベニタケは、遊里の女性たちを彷彿させる白粉を塗ったうなじに紅色の傘を置く姿で、彼ならずとも男性の憧れの女性像であったろう。ただ彼の時代の紅茸は、おそらく傘の紅いものだけを指したと思われるが、菌蕈学が進んだ現在では、これとてすでに旧分類体系となってしまったが、ベニタケ科のきのこは、乳を出すものチチタケと出さないものベニタケに大別され、僕たちがふらりと野山に出かけて出会うだけでも白、灰、赤、黄、緑、紫、黒、藍青、赤橙などなどさまざまな傘を持つものが50種近くあり、それらはまた微妙に異なるものがまじり、実際には200種以上のものが遍在すると言われている。交野で出会ったベニタケだけをとっても以下のようにさまざまである。 アイタケ Russula virescens 夏、きのこをつくるアイタケは、暑くなるとパニックになってきのこをつくる仲間(僕たちの常識とは正反対の生き物で夏が好きではなく嫌いだからきのこをつくる)である。ドングリ林やシイ、カシ林を歩くと緑の茶がすり模様の傘で出迎えてくれ、ベニタケの中でも、類似のきのこがないため、比較的分かりやすいきのこだ。傘の中央が割れることはすくないが、このヘリは割れた状態が普通で、割れ方もまちまち、色も淡い緑から鮮やかな緑、赤色や黄土色がまじったりするので、ドギマギさせられるがヒダ、柄ともに白いままなので、きのこ好きならすぐにお友達になれる輩である。 種小名のvirescensは、緑色になるという意味。
ムラサキのきのこ Russula sp.(ベニタケの仲間の意味) この紫のきのこ(上左)は、真冬の寒いときに発生すれば低温菌(寒くなるともうここでは生きていけないと思ってきのこをつくる菌類で寒さが好きなわけではない)のカラムラサキハツRussula omiensis と即答できるのだが、この夏の盛りに顔をのぞかせる紫の君は、ちと難しい。柄もヒダも白色のままなので、かじってみて辛くないことが確認できれば、関東でカシタケとかシイダンゴと呼ばれている食用菌でヤブレベニタケに近いきのこだが、残念ながらそうであっても正式和名も学名も与えられていないのが現状である。 紫色のベニタケは、ムラサキカスリタケ、ムラサキハツ、ウスムラサキハツ、クサイロアカネタケ、ヨヘイジなどがあるが、いずれもヒダが白くはなく柄も傘の色が反映されていたりして、この日出会ったきのことは異なる。 ムラサキのベニタケは源氏物語の紫の上のように美しい面影を宿してはいても、なかなか正室とはなれない日かげもののきのこのようだ。 アカカバイロタケ Russula compacta (上右) 近年、どこの広葉林に入ってもバカバカ見かけるようになった夏のベニタケの代表選手だが、20年前には関西では本当に稀にしか出逢わなかった。それだけに印象深いものがあったきのこだが、カバイロというのは、明るい褐色を指す。ヒダも柄も白色だが、いずれも手に触れるとゆるやかに褐変する。ムチムチしておりいかにもうまそうなベニタケだが、魚の腐ったような不快なにおいがあり、乾燥すると一層強まり、このきのこが出ていればニオイでわかるくらいだ。味もまずい。というと食べたような口ぶりだが、実は・・・。しかし、食べて死ぬようなきのこではないので、お試しいただくと一生涯忘れないと思うから是非お試しあれ。 種小名のcompactaはcompactus(密な)で、ヒダの密なところから来たものと思われる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013年07月18日 20時28分35秒
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