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夢みるきのこ

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2020年11月18日
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​​ 近江八幡の旅でご紹介した​ムラサキアブラシメジモドキ​​ C. salor​ の新鮮な個体は、こんな洋菓子のような立姿をしている。あでやかなムラサキ色を競う晩秋のきのこたちの中でもとりわけ私が愛してきたきのこである。
 地球上の生き物の中でもとりわけ例外的な進化の道を選んだ人類は、不思議なことに単細胞生物のきのこ・かび・酵母に代表される真菌類と非常に酷似している。不可逆的に細胞が連携して多細胞生物となったヒト種と、単細胞のまま様々なユニークな生き方を展開してきた真菌類。両極端は通じ合うということであろうか。
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 そして21世紀も1/5を経た今日、ようやく新型コロナウイルス禍で新たな超微生物と向き合うことになったヒト種。
 そんな中でも、シンプルライフを求める縄文志向?のヒトと、あくまで進歩し続けることを希求する弥生志向??のヒトとの間に横たわる深淵は橋の架けようもないほどに乖離しつつあり、小手先の対処療法では手がつけられないまでになってきた。
 江戸期の俳諧を牽引した芭蕉と蕪村の踏み跡を辿っていくと老子・荘子の差異に行き当たる。わが国では老荘とひとくくりにされているが、この二者は蕉蕪同様、その生き方には雲泥の差がある。そしていずれも切り捨てて考えることはできないかけがえのない思想とでもいうべきものを孕んでいる。
政治・経済で世の中すべてと考える人たちには、どうしてもこの排除の構造が見えてこない。生き物を愛する人たちの子や孫に伝えるべきただひとつのことは、対立と排除からは決して何も生まれないこと。
私はそのことをきのこというヘテロな生き物から教わった。
きのこと出会って以来、そのことを私のライフワークとしてきた。パワーゲームやマネーゲームという原理からは対立と排除しか生まれえないことをそろそろ知るべき時がきている。政治や経済は人類にとって必要不可欠なものであっても、文学やアートの<無用の用>の影の力を決して捨ててはならない。
 政治・経済が太陽(正系)であれば、文学・アートは月(異系)の作用である。<ヘテロソフィア・アート、=異系の叡智による芸術・文学>を21世紀の新しい倫理の流れにするための一つの試みが『月のしずく』の試みのすべてなのだ。きのこの叡智に促されて35年。ふりかえれば、同伴者は皆無に近い状態となってきた。私のあほうなところはただひとつ。「人間、歳をとるということを忘れているのでは?」とよく言われても来た。
 しかし、人間は菌類同様、歳をとらない唯一の生きものであることを忘れてはならない。それが言葉の作用なのだ。アーティストに言葉の表現を勧めるのはそういった意味からだ。多言を弄する必要は決してないが、自身の創造行為にふさわしい言葉を見つけ出す努力のないアーティストは、いつしか私の視野からはこぼれていくのは致し方ない。言葉こそが<季節としての青春>を<方法としての青春>に変える唯一の力だからだ。


 神無月朔の11月15日を以って私の2020年のヘテロソフィア、すなわち<月のしずく>を拾い集める旅も静かに幕を閉じようとしている。すっかり茶葉を採り終えた茶畑にひっそりと茶の花が咲くように、新しい年がムックと頭をもたげはじめている。<無用の用>の、かけがえのない旅。
 さて、明日はいずこの空の下で月を仰ぐことになるのやら。





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最終更新日  2020年11月18日 09時22分25秒
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