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夢みるきのこ

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2021年06月01日
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カテゴリ:川西きのこクラブ

​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ 猪名川の上流部に位置する棚田で有名な長谷地区と三草山は、いなべ物部氏や秦氏によって5~6世紀に入植、開拓されたところで、古代には材木の集積地であった名残りの残る地名も散見でき、なかなか興味がつきない土地柄である。

 初夏の森で傘の径5~9cmもある中型きのこの代表は、まずこのきのこだろう。
 ​​ウラベニガサ ​Pluteus atricapillus​​​
   今回は広葉樹立ち木の数メートル上のところから顔をのぞかせていて我々をたのしませてくれた。ヒダは密。はじめ白色、胞子が成熟するにつれ肉色を呈することからウラベニと名付けられたが彼らの青春時代のヒダの色は純白だ。でもそこはかとなく紅が滲んでいるのがおわかりだろうか。

 その柄が白色であることが重要。同じような姿態をみせるミイノモミウラモドキなどとの区別はこの柄の白さと材木上から発生していることである。
ウラベニちゃんの柄は白い上にこのように繊維紋があるのがおわかりだろうか。モミウラも紅絹裏(もみうら)と書き、肉色のヒダをもつ。


 写真上は、ウラベニガサのカサの表面。
 通常は、ミイノモミウラモドキ同様こんな具合に地上付近に発生する。(写真下参照)




 出会ったとき、ホウライタケグループのきのこだと思ったが、この柄の透明感はホウライタケ属には似つかわしくないものだ。

 ​​  この透明感はヌメリガサ Hygrocybeかクヌギタケ Mycenaに特有のものであるがヒダが疎であること、コヒダをもつことなど、なんとも同定は難しい。このきのこは、グループ名もホウライタケspとするかクヌギタケspとするかなかなか悩ましい。あなたならどうしますか。

​​​​​ 典型的なモリノカレバタケ​ Collybia dryophylla​ の柄にご注目。ヒダがきわめて密であることも特徴だ。
 コリビアとは、小さなコインという意味で、林地に点々とコイン(菌貨!?)が落ちている様子からの命名だ。この菌貨のようなきのこにもいろいろあって、この日は ​​Agrocybe​ グループのハタケキノコPsathyrella​​ ​グループ​​タチタケ、ムジナタケなどが散見された。 ​​​​ ​​


 ​これは1個体のみ草地でみられたシメジグループのきのこだが、タイプ種とはずいぶんイメージか異なるが、傘と柄が黄土色から黒褐色までバラエティーに富んでいるハタケシメジなどの ​Lyophyllum​ ​グループの​​​カクミノシメジだろう。カクミとは胞子が角型をしているという意味だ。ちなみにシメジとは、ヒダが幼菌から成菌まで白いままのきのこたちをいう。​

 同定の比較的簡単なのは、腹菌類 Gastromyces の仲間だが、これはご存知だろうか。あえて名前は言わないでおこう。

 ​​きのこを始めて徐々に目が肥えてくるとベニタケのグループの中でも乳汁を出すチチタケ類 Lactarius は、すぐに分かるようになる。多くのチチタケはベニタケ様のカサの表面に同心紋がつけられることが多い。しかし、このチチタケはどちらかというとホウライタケのようなぬめりとは無縁の傘を持っているが、見るからに「切ったら乳が出るターラタラ」といった乳母の風情である。きのこ目を養うとは、こうしたきのこ全体から発している信号を一瞥の内に理解することなのだ。​​
 私が日本キノコ時代にフランスのサバティエさんの『グラタン・デ・シャンピニオン』を永井真貴子さんにイタリア語・フランス語版より翻訳してもらい、山と渓谷社の香川長生さんに頼み込んで『きのこの名優たち』として出版にこぎつけたのもそれが理由であった。きのこをとことん観察し、それをアート表現にまで高める努力なくしてきのこの文化創造はありえないからだ。
 ヒロハウスズミチチタケ Lactarius subplinthogalus ​​
 クロチチタケのグループに属し、乳は辛く傷つくとゆっくり赤変することが特徴。こんなおしゃれなスタイルのものからもっと没個性的な個体までさまざまある。​


​ 典型的なクヌギタケ Mycena グループのこのきのこ。​

 ​​アシナガタケ ​Mycena polygramma ​
 
​外気が上がり始めると発生するクヌギタケの小型種。
  ニオイアシナガタケとよく混同されるが​、ヨード臭のある「ニオイ」がついた種は、全体に褐色がかった色で、晩秋から冬、外気が下がってくるときのこを作るので区別できる。同じ薬臭のするアクニオイタケは、サイズがもっと小さいことで区別できる。​


 ​​さてこのきのこと下の写真のきのこ、ちと同定が難しいが、私の経験知からは、即座にベニヒダタケ ​​Pluteus leoninu​s​​​​と判断したが、傘の縁だけでなく全体に条線があり、粒点までところどころあり平滑なカサとはいいがたい。これが微生物のきのこの難しいところで、野山での知見からだけでは種名が断定できないもどかしさが残る。
こんな場合は涙を呑んで傘が橙褐色のPluteus sp. ウラベニガサの仲間としておくしかない。​​




​ ヒメコガサ Galerina hypnorum​
 次のヒナノヒガサよりも大きいが、コケ類の間から顔をのぞかせるケコガサタケ属の小型きのこである。きのこ全般に言えることだが、ガレリナ属はとりわけ利用価値が不明なところから研究者は少なく、この学名をもつきのこは、顕微鏡下で胞子が仮面状の外被に覆われる​​種の集合種とされており、G.hypnorum ​は従来より分類学者によりさらに多くの種に分けられている。​​​​が、少なくとも月のしずくの会員は、このきのこに関しては私がこれまで見届けてきた経験から言えばヒメコガサと同定してよい。​

 ​​ヒナノヒガサ ​Gerronema fibula ​​​
   林内のコケ類の間から出る小型きのこのゲロネマ属のきのこたちの代表株が、このきのこだ。ゲロを想像させるゲロネマはともかく、田舎(ひな)の日傘なんて名付け親の顔が見たい気がするが、ヒナは姫に通じるのでまあいいか。なんとも可憐きわまりないきのこである。傘の中央がへそ状にくぼんでいることが特徴。

​​​​​​​ ​​イヌセンボンタケ Coprinus disseminatus​​
  腐った切り株などから群生して発生するヒトヨタケグループのきのこだが、Ink mushroom(一夜茸)の特徴である傘が液化して溶け落ちることはない。全体に白色の微粉で覆われていることが特徴。


​​ さて、今回のきのこの旅で私が35年目にして初めて出会ったきのこがこれである。この日はアシナガタケにたくさん出会ったので、アオミノアシナガタケ ​Mycena amicta と思ったが​​​​​​​​傘は、始め全面青色を呈し、次第に退色して灰から帯黄色となり、最後には周縁部にのみ青色を残すだけとなる。湿っているときには条線をもつとあり記載だけをみるとそうかなとも思ってしまうが、帰ってからいろいろ思い巡らすうちに、私の経験知からすれば、この写真のきのこはクヌギタケではありえないように思えてきた。
どう見ても、ヌメリガサ Hygrocybeでしかありえない。
まあ、もうしばらく悩んでみたい。


 ​ 以上でお分かりいただけたと思うが、ごらんのようにきのこというのは、本来的に微生物に属する生き物の仮の姿で、とても一筋縄ではいかぬ複雑怪奇なもの。​そんなきのこと親しく付き合うとは、安直な判断を差し控え、しっかりと対象を見定めつづけるということに尽きる。「月のしずく」に拠る私たちがどんなに多忙であっても野山のきのこの観察を続けている所以である。

 この異生物との付き合いの中から21世紀以後の地球にふさわしい「異」というものを考える新しいエチカ(倫理)を伴った文化を創造しようというのが私たちのいうところの「月のしずくの文化」なのである。
 その道は遠いが、着実に歩き、すべての既存の文化とリンクさせる手立てを見つけ出しゆるやかにつないで総合芸術として大成させていくこと。科学の行き過ぎをスローダウンさせ、芸術文化との接点を回復すること。それはアート表現でのみ唯一可能だと私は考えてきた。
 きのこ好きのアーティストらの奮起を期待している。






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最終更新日  2021年06月05日 20時03分03秒
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