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カテゴリ:川西きのこクラブ
厳密にいえば、私たちが野山で出会うきのこはいずれも不明種だ。きのこは微生物の菌類がときたま打ち上げる巨大な子実体(有性生殖器)で本体ではなくいわば虚像なのである。きのこの文化誌とはその虚像の真実を私たち人間の側に引き寄せて脱構築していくものだ。虚像であるがゆえに個体差が大きく同定はさらに難しい。
これは何十年やっても同じこと。年々不明種は増えていくばかり。 このきのこは硬質菌のサルノコシカケが朽ちて樹上から堕ちたものと思った。ひっくり返してみると黒々とした柄があり、写真下のようにヒダが不定形で迷宮めいている。 能勢の妙見山の奥の院から降りてくる途中でもっと朽ち果てた同様のきのこにも出会った。私はこの管孔が渦巻きや迷宮状のきのこを、ジョーグでムカシオオミダレタケと呼んでいるが、この種名のきのこはちゃんとある。おそらく、これはクロカワの成れの果てだと思っているが、確証はない。 今回最大の不明種は、このシロテングタケ A.neoovoideaとドクツルタケA.virosaを足して2で割ったようなきのこである。ドクツルタケにしては外被膜(このきのこのミニチュアサイズのものを格納しているやわらかいツボ)が異様に厚く、しかも純白のまま右下の地面と傘の上に残っている。純白というより汚褐色に近いぼろをことまとったようなシロテングタケにしては、全体に純白で美しすぎる。 この柄にささくれがあること、全体に純白でドクツルタケよりもたくましく大きいことから、私はバイカル湖でロシアの菌学者たちと合同調査に入ったときに認めたAmanita alba (ラテン名のアルバは白色のという意味)ではないかと思ったか、このきのこには和名がなく列島では未報告なので確かなことは言えない。 疑いはじめると疑心暗鬼におちいる。 タマシロオニタケ A. abrupta と即断したこのきのこ。 かように明瞭な特徴を備えていてもシロオニタケモドキA.hongoi ではないかと疑いはじめる。しかし、この迷いこそがきのこファンを他の生物ファンとは異なる生物観を抱かせる最初の一歩なのだ。名前を知ったところでほとんど何の意味もありそうにないきのこのスフィンクスの謎かけに似た一期一会の出会いを大切にし、とことん悩むことで他者というものに対する基本的な接し方を身に着けていく。それが私の言うきのこ趣味というものだ。 このきのこは最終的には傘のイボの無いことに加えてツバの残片が縁に残っている事。さらに基部のふくらみがツボではないことから タマシロオニタケではなく以下のきのこであることが判明。 カブラテングタケ Amanita gymnopus 出会いの第一印象は玉に乗っていることからタマシロオニタケと思ったが、それにしてはたくましすぎると感じたこと。この第一印象は経験からくるもので、ひたすらきのこと向き合うことなしには得られないものだ。しかし、きのこで本当に大切なのは、その名前を知ってからのことなのだが、ここで大方の人は判断停止してしまう。きのこは未知で満ちているから広く浅くはある程度仕方ないと言えばそうなのだが、時折振り返って自身の知識の浅さを反省することも必要である。 さてきのこ旅は続きます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年07月27日 11時09分54秒
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