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夢みるきのこ

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2021年10月01日
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カテゴリ:川西きのこクラブ

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​​  カワムラフウセンタケ ​Cortinarius purpurescens ​
  フウセンタケの特徴は傘の裏に胞子を保護する被膜がCortina(=クモの巣状)であること。胞子が成熟すると鉄さび色になることで、和名となった風船茸の基部が風船のようにふくらむことは2次的な特徴である。
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 この命名者の川村博士の名前を冠したフウセンタケはその和名の典型で基部がそろばん玉のように膨らむ。そしてプルプレスケンスは触るとムラサキ色に変色することからの命名である。このきのこも関西では随分みかけなくなって久しい。

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 この明瞭なきのこひとつ取り上げてもヤマケイの『日本のきのこ』に掲載されている写真とは随分と異なる印象をもつ方も多いだろう。きのこの見極めには、全体的な印象を的確に把握することが何よりも大事なのだ。
 きのこ名人がまったく同じと思われる食用きのこを採っても少しでも違う印象をもつきのこは食用から厳密に区別して取り除くくらいの慎重さをもっている。目利きの目利きたるゆえんである。


 随分と少なくなったきのこと言えばこのサクラシメジもまず挙げられる。昔は立秋をすぎるとバケツ一杯とか大型のごみ袋両手に一杯とかいう単位で発生して喜ばせたものだが、今回のナナマツではたった1本見つかったのみだった。
  ​​サクラシメジ ​​​Hygrophorus russula
 大型のヌメリガサでかすかに苦みがあるが、それもこのきのこと特徴である。出始めは白っぽいが、触れるとワインレッドが濃くなるので、この恥じらっているような色合いがなんとも印象的で私はあまりきのこは食べることはないが、これは時々口にしてきた。 ​​​​​


   傘の表面にイボ状の痕跡があり全体に粉っぽかったのでハイカグラテングタケと思いきや、よくよく観察すると長野などでお目にかかったハイカグラテングタケとはどうしても思えなくなった。サイズからすればクロトマヤタケモドキ Inocybe cincinnataに近い。しかし、この粉被り状態はアセタケ(=イノシーベ)とも全く異質のきのこで、目下のところお手上げである。 

  かって大分県の湯布岳で群生していて、この地の特産にしようという地元の要請に横山先生たちが幾度か訪れた折のササナバとよく似たホウキタケの仲間のきのこだ。
 微生物学の中でも野性のきのこ研究の基礎学問の重要性は誰もが口にはしてもただちにお金に結び付かないため常に後回しにされてきた。きのこの同定の難しさは、研究者が育つ土壌の貧弱な我が国の状況を反映して、いつまで経っても打てば響くような図鑑が出てこないことにある。Ramaria属のこうしたきのこもとても研究が遅れた分野で、永遠に明らかになることはないだろう。私がきのこを始めた80年代なかば頃には、アマチュアの仲間同士のサロンが形成され、それぞれが属ごとに分担して知見を深めていたものだが、その頃の友人の殆どが鬼籍に入り、生き残り組はきのこそのものに真剣に取り組む人たちの不在に失望したものか、すべてきのこの世界から遠ざかってしまった。​​​

 アート系の若い女性たちの活躍が華々しいのは唯一うれしいことだが、実際の野山でのきのこたちとの対話を欠いた図鑑のきのこのイメージからの造型がほとんどなので、きのこのアートといっても幼児が花と言えばお決まりのチューリップを描くような域から一歩も脱しえないのが現状である。それを脱するためにはきのこを愛する人たちが大好きなきのこのグループをできるだけ早く見つけて自分の得意とするアートの手法を活かした表現を次々に生み出しアートにおけるきのこの文化の裾野を大きくひろげることが不可欠である。その基層の上で微生物学としての菌類研究にも日陰の存在の研究者たちに予算がまわるような状況をつくりあげることが肝要である。
 しかし、現状はそれぞれの分野のアマチュアが自身の殻に閉じこもり他を顧みない傾向が顕著で、他との協調が益々みられなくなってきている。
 かってのMOOK『きのこ』も、現在の「月のしずく」も、もっとも読んでほしいきのこ愛好家からの声は少しも届かず、他分野で苦戦している研究者や趣味人からの評価でかろうじて支えられている状態である。
「きのこをメジャーに」するためには、生物学や生命誌に基礎を置き特殊世界から普遍への道筋を総合的に極め回路づくりをする作業が是非とも必要で、そうした意欲をみせる人材(財)が圧倒的に不足しているのを感じる。

 このきのこも通常のきのこ観察会では、アイタケ だとしてそれですまされてしまう。しかし、アイタケとは明らかに異なる。これを同定するためには最低限光学系なら1000倍の油浸顕微鏡が必要になってくる。しかし、ベニタケの微細な胞子を正確に見極めるためにはそれでも不十分なほど微細で、ほとんどが正確な姿を現してくれない。​​

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  Mauro Sarnariさんの800ページに及ぶイラスト写真つきのイタリア語のベニタケのモノグラフ『Genere RUSSULA in Europa』を参照しても明快な解答は得られない。
 「たかがきのこ」とうそぶいてみても、このきのこひとつ取り上げてもこれがベニタケに所属し、近似のきのこにアイタケがあるが、どうもアイタケにしては、灰色がかち過ぎており、傘のへりの粒点と表皮のちぎれ方や絣模様の斑点が乏しいなどといった特徴を基にして、本郷図鑑の各章はじめにある科から属に至る検索表くらいは頭に入れた体系的なきのこの把握が必要になってくる。きのこの世界は「キャッ可愛いや、ウへッきもい」だけでは一歩も前に進まないのだ。
 さいわいなことにきのこ観察会でもこれをアイタケと命名してもそれはおかしいと思う人は皆無なので、ちょっと変わり者ですが、これはアイタケ Russula virescensでしょうね。ですませてしまうので永遠に種名はわからない。

 この蝋細工のような赤いきのこは前述のサクラシメジと近縁のヌメリガサの仲間だが、ざっと図鑑を見てもこれと類似のきのこだけをとり上げてもベニヤマタケ、ベニヒガサ、ヒイロガサ、アカヌマベニタケと随分ある。
 こうしたチビキノコたちをしっかり見分けるための手立てを次春から「月のしずく」でも誌面を割いていきたいと考えている。きのこファンの会員さんは、ラボMには光学系では最高の油浸顕微鏡も揃えているので、ぜひご協力いただきたい。
 さて10月はいよいよ秋本番。アート展や仕事やムックの旅もますます充実するのでうれしい悲鳴が上がりそう。
ということで難しいことはこれくらいにしましょう。
以上、ナナマツの森のきのこの紳士淑女録でした。






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最終更新日  2021年10月01日 21時08分56秒
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