ミヤマベニイグチ Boletellus abscurecoccineus
夏から秋の森で赤い衣装をまとってあらわれるきのこは多々あるが、かさの裏が管孔であるイグチで赤いものにはざっと挙げただけでもコウジタケ、ヌメリコウジタケ、アカジコウ、ベニイグチ、ミヤマベニイグチ、アシベニイグチなどと多様である。
赤い傘の表面がひび割れしそうなちりめん状であること。匂いが甘くないことから、この写真のきのこは、ベニイグチのグループに属することはただちにわかる。フォトジェニックなきのこの写真のタイトルならそれで十分である。
大型で全身が赤ければベニイグチだが、中から小型のこのタイプのきのこは、それこそ多種多様で即断はできない。
まずは周りの木々が広葉樹か針葉樹であるかをみる。
次にひっくり返してスカートの裏の劇場をじっくり眺める。
それに加えて傘と柄の付け根の形状。
さらに柄そのものの形状、太いか細いかと縦筋や粉状の鱗片の有無。基部に往々にしてつく綿毛状の菌糸の有無。
管孔の色、形。青変性の有無。それらを検分してもまだ不明であれば、噛んでみて苦いかを確かめる。そしてきのこがただよわせている匂い。
名人、あるいは迷人は、これらを総合的に判断して何であるかを出会いざまに瞬時に判断する。それは往々にして間違っていることも多々ある。
したがって食用きのこを専門に採取する名人は、最終的には並べてみて少しでも、違和のある色・形をもつものは捨ててしまう。
迷人は、持ち帰り顕微鏡で調べ胞子の大きさ、形、ヒダのシスチジア、傘の表皮、柄の細胞などをつぶさに調べ種名を決定する。
その際には図鑑のみならず、そのきのこの科レベルのモノグラフをひもとく必要がある。
たかがきのこの世界であっても、最低限これだけの愛情をそそぐことが真剣におつきあいする最初の一歩ということなのである。