夢みるきのこ
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きのこファンが近郊の山へキノコウオッチングに出かけるようになるとまず最初に親しくなるきのこがこれである。 モリノカレバタケ Collybia dryophyla 落葉を分解して土に還す落葉腐朽菌。初夏から晩秋の森ではかならずお目にかかる働き者のきのこである。コリビアとは、小さなコインという意味で森のそこかしこにさながら銅貨が巻き散らかされているような様子から名づけられた。 彼らは落ち葉に菌糸をからませて栄養分を吸い取り、白化させてまずしっかりと地面に固定させる。これをホワイトロッドという。そしてじっくり時間をかけて落ち葉を土に還元するのだ。 初夏から夏の森できのこにとって厳しい条件であっても元気に顔を出すのがこのきのこである。 マツオウジ Lentinus lepideus 松旺子と書き、松から出るとても旺んなきのこという意味である。かってはシイタケの近縁とされてきたが、木材を褐色腐朽させることから白色腐朽のシイタケとは全く別物であることはずっと議論されてきて近年ようやくそれが通った。この日の森では玉の汗をかきながら出迎えてくれた。松の香りが強いしっかりものの木材腐朽菌である。 さて、泉鏡花がこよなく愛したベニタケRussula の仲間だが、このきのこたちの名前を言い当てることはとても難しい。都市近郊の山々でも普通に歩いても数十種類の色とりどりのベニタケに出会うが、図鑑で知りえるこのきのこの仲間はせいぜい20種で、胞子も1000倍の高倍率の顕微鏡で調べても微小でよくわからない場合が多い。このきのこも次のきのこも種名は即座には判定できない。白色を呈するベニタケには、シロハツ、ツギハギハツ、カレバハツ、ケシロハツ、ヒメシロチチタケ、ケショウシロハツ、シロカラハツ、ツチカブリ、トビチャチチタケなどがあるが、いずれにも該当しない。 今は亡き菌友の上田俊穂さんは、こんな乳汁を出さない雪のようなきのこにユキハツというすてきな名前を冠してくれた。 また彼はヒメシロチチタケという可憐で小型のチチタケ(ベニタケのうち乳汁を出すきのこのことをこう呼ぶ)を新種ではないかと標本をつくり送ったが、日米の学者夫々の間でいい加減にあしらわれ放置されていた。彼はそれを10年かけて辛抱強く注意を喚起し続けてついに新種のチチタケと認めさせた。それを上田俊穂さんと同行した箕面の桜公園へ行く途中の岩場に発生していたのを見つけたとき、彼から新種登録の苦労話をざんざん聞かされたものだ。 ヒメシロチチタケ Lactarius uyedae 今では考えられないことだが、新種登録でも戦後の日本はアメリカがその権限を有しており、新種と思しききのこは、日本の学者に提出して、そこで検討されたうえでアメリカへ送られるが、ベニタケの専門である学者に送られれば別だが、専門外の学者の手もとに送られればそのまま放置される。 かくしてラクタリウス・ウエダエは日本のアマチュアのきのこファンの名がはじめてラテン名に登場した記念すべき事件だった。 ヤマケイの『日本のきのこ』が出て、きのこに関心が高まった時点で、こちらも故人となってしまったわが盟友・内田正宏さんが尽力して鳥取の日本きのこセンターの長沢栄史さんらを動かして手配した ヒョウモンウラベニガサ Pluteus pantherinus は、1年少しで 新種登録された。シイタケの榾木に発生することのあるウラベニガサ(通称シカタケ) Pluteus atricapillus の傘に豹紋、すなわちまだら模様のつく木材腐朽菌だが、シイタケ農家にとって準害菌であることも手伝っただろうが、何とも素早い対応だった。
こちらの灰紫いろのきのこはもっと不明な種である。 ヒダは幅があり(シスチジアが大きいということにつながる)、しかも薄く密。傘を広げて胞子を飛ばす状態の成菌になっても白いままで柄も混じりけなしの白一色でヒダと同じである。
傘の縁にはかすかに条線が認められるがクサハツのように粒点は有さない。傘の中央部は紫灰色で周辺に向かうに従いその色は薄くなる。 イタリアから出されているマウロ・サルアニの英語とイタリア語併載のモノグラフ『ヨーロッパのRussula』を見てもなかなか同定には至らない。 とにかくきのこは一筋縄にはいかないのが普通である。 昨今のきのこファンはこうした面倒なことは素通りして自分勝手なイメージで作り上げたきのこ像に固執するのできのこ文化そのものが細っていくのは残念だが、時代がそうさせるので致し方ないか。
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