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まいかのあーだこーだ

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2020.08.10
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カテゴリ:漫画・アニメ
戦争は、
けっして「非日常」ではなく、むしろ「日常」の地続きにある。
そのことをアニメの映像によって表現した作品です。



この映画の冒頭に流れてくる音楽は、
クリスマスソングの「神の御子は今宵しも」です。

広島は、
呉が東洋随一の軍港だったので、
米国の標的にされたのですが、
その一方には、人々の豊かな生活がありました。

夏には、
涼しげな素麺やナスの漬物やスイカを食べ、
冬には、
町がクリスマスで賑わい、
モボやモガがお洒落をして闊歩し、
店先ではチョコレートやキャラメルを売っていた。

じつは、
現代の生活とほとんど変わりありません。
そんな町をアメリカの原爆が焼き尽くしたのです。



この物語の主人公は、とてつもなく無力です。

いつのまにか、
見知らぬ土地の、
見知らぬ男性のもとへ嫁いできて、
その運命のすべてを受け入れながら生きています。

彼女が、
自分の意志で何も決められないのは、
かならずしも彼女の性格だけの理由ではありません。

そういう時代であり、
そういう国家であり、そういう社会であり、
そして当時の女性が、そういう立場だったからです。

結果として、彼女は、
なすすべもなく時代と国家の運命に翻弄されるしかありません。



しかしながら、
こうした生き方は、
現代のわたしたちにも通じ合っています。

現代社会が、たとえどんなに自由に見えるとしても、
わたしたちは、あらゆる物事を自己決定しているわけではないし、
むしろいまだに理由の分からないことに翻弄されることのほうが多い。

そのことは何も変わっていません。

ーー悲しくてやりきれない。

この言葉が、普遍的な真実を物語っています。
わたしたちが悲しくてやりきれないのは、
みずからに降りかかる運命に理由がないからです。

すずさんのような女性は、
今もなお身近に存在しているし、
もっといえば、
それは、わたしたち自身だといえます。

はるか昔に起こった戦争や原爆という出来事も、
じつは、とても身近にあるのだと言っていい。
同じことが起こったとしても、すこしも不思議ではない。



社会の暮らしと営みは、
力のない人々どうしが支え合いながら、
小さなことの積み重ねによって成り立っています。

映画のなかでは、
そうした細部がひたすら淡々と描かれていきます。

長い年月をかけた小さな積み重ねによって、
日々の暮らしが支えられ、人が成長し、
世代や文化が受け継がれていくのですが、
巨大な力は、それらを一瞬にして破壊してしまう。

破壊されたものは、また一から作り直さなければならない。



フォークルの「悲しくてやりきれない」ってのは、
つくづく不思議な歌だなあ、と思います。

よく知られているように、この曲は、
期せずして発禁処分になった「イムジン河」の代用品として、
パシフィック音楽出版に強制され、
軟禁状態におかれた加藤和彦が無理やり作らされたものです。

「イムジン河」の音符を逆にたどっていたら、
ひょろっと思いついたメロディだともいわれています。

しかも、そこに、
これまたフォークルとは、縁もゆかりもない、
ジャンルも世代も違う、サトウハチローという御大が、
なんの打ち合わせもないところで歌詞をつけてしまった。



この曲は、
誰の表現の意思ともいえぬところに出来てしまった、
いわば偶然の産物であり、
ある意味では、さかさまの歌です。

パシフィック出版でもなければ、
加藤和彦でもなければ、
サトウハチローでもなければ、
イムジン河の作者でもない。
日本人でもなければ、朝鮮人でもない。

だれの意思でもない、
何らの「表現の意思」とも無縁なところから、
ぽわん、と生まれてきてしまった歌。

そんな歌が、これほどの普遍性をもってしまっている。

山田太一や、
周防正之や、
井筒和幸や、
片渕須直といった人たちに、
繰り返し、繰り返し使用され、

いまや時代と空間を超えて、
世界中で聴かれています。



それをコトリンゴが、
ぽわん、と歌っている。

映画のなかでは、
ボーっと生きてきた一人の無力な女性が、
気づいたら、知らない土地に嫁いでいて、
まったく無力なままに、
選べなかった家族や、
選べなかった時代や、
選べなかった国家の運命に翻弄されていきます。

そんな悲しくてやりきれない人生に、
この誰の意思でもなく生まれた、さかさまの歌が、
ぽわんと乗っかって、ぴったり寄り添っていく。

そして、
特定の誰かのものではない、
普遍的な悲しみを歌っています。







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最終更新日  2024.06.17 17:40:01


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