カテゴリ:純情きらりとエール
冬吾が、笛子のもとから逃げてきました。
まあ、 笛子から逃げるのはいいとしても、 八州治や八重やマリのところではなく、 わざわざ、よりによって岡崎まで来るというのは、 やっぱり桜子に「何かを期待して」のことなのでしょうか? それとも(太宰治もそうかもしれないけど)、 たんに「女のところを渡り歩く」という彼の習性なのでしょうか? ◇ いまさら言うのは何だけど、 そもそも冬吾がどうして笛子を妻にしたのか、 そのこと自体が不可解なんですよね。 ほんとに彼女を愛したんでしょうか? 恋愛と結婚というのは別物だし、 笛子のような堅い女を妻にするのは、 ある種の合理的な判断だったかもしれないけど、 ややもすると、 ただ打算的に利用しあってるだけの夫婦にも見える。 あらためて結婚にいたった経緯を思い起こしてみると、 冬吾がすすんで笛子を愛したとは言い難くて、 どちらかといえば、 笛子の想いをやむなく受け入れた、というのに近い。 そして、それと同じことは、 じつは桜子と達彦の関係にも言えるのですよね。 桜子はすすんで達彦を愛したのではなく、 どちらかといえば、 達彦の想いを受け入れた、というほうが正しい。 ◇ 恋愛と結婚は別物ではあるけれど、 あくまで「恋愛としての純粋さ」という意味でいえば、 やっぱり桜子と冬吾との恋愛が、 もっとも純粋で、 もっとも嘘のない恋愛だったように見えます。 たしかに世間的に見れば不純な不倫行為だけど、 それだけに、 なんらの打算もありえなかったわけですから、 あれこそが、ほんとうに捨て身の恋愛だったように見える。 実際、太宰治の場合も、 「女にだらしない」と言えばそうだけど、 心中するくらいに捨て身だったという点でいえば、 打算のない純粋な恋愛だった …とはいえる。 ◇ 達彦は戦地から帰ってきました。 桜子は、冬吾にそのことを告げました。 すると、冬吾は「えがったな」と笑って、 まもなく桜子のもとを去っていきました。 これにて二人の恋は終わり。 一件落着。 とも見えるのですが、 …じつはそうとも言いきれない。 わたしの14年前の記憶も曖昧で、 ネタバレしようにも出来ないのですが、 桜子と冬吾の精神的な繋がりを感じさせるエピソードは、 このあとに、まだ残っているはずです。 ◇ ◇ それはそうと、 ヒロさんのマルセイユ=ブラザートムの喫茶店で、 またバッハの「ゴルトベルク」のレコードをかけていました。 戦前のシーンでは、 チェンバロ演奏のように聞こえましたけど、 今回は、どう考えてもピアノのように聞こえます。 しかし、昭和21年ですから、 まだグレン・グールドのレコードは世に出ていない。 グールドがデビューするのはおよそ10年後だし、 そもそも彼の最初の録音はもっとテンポが速い。 ためしに楽曲検索をかけてみましたけど、 やるたびに違う演奏家の名前が出てきて、 結局だれの演奏なのか分かりませんでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020.12.23 14:01:35
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