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まいかのあーだこーだ

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2023.09.30
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朝ドラ「らんまん」が終わっちゃった!

終盤の内容はあまりにも濃密で、
内容をフォローするのはなかなか大変でした。

過去のエピソードを回収するだけでなく、
史実をアレンジしながらも、
さまざまな《歴史の諸相》を回収していたからです。

そういう意味では大河ドラマに近かった。

大森美香は、
朝ドラ「あさが来た」のあとに、
大河「青天を衝け」を書きましたけれど、

今後、NHKは、
長田育恵にも同じことを期待するでしょうね。



今回の物語は、
「妻に苦労を強いた牧野富太郎」という従来の説を覆し、
「みずから苦労を買って出た牧野寿衛」のイメージを確立しました。
どっちが実情に近いのかは分かりませんが。

でも、
牧野富太郎が「スエコザサ」の学名を与えたという史実が、
物語の結末に力を与えて、その説を補強する形になったと思う。

わたし自身、
「Sasa Suwekoana Makino」という学名を見たら、
それだけでなんか泣けてきます。

なお、
当初は「Sasa Suwekoana Makino」と発表したものの、
のちに鈴木貞夫がアズマザサ(Sasaella ramosa)の変種に分類し直したので、
現在では、
Sasaella ramosa (Makino) Makino var. suwekoana (Makino) Sad.Suzuki
という複雑な学名になっているようです。
http://ikimono8000.blog36.fc2.com/blog-entry-3000.html




最終回は、じんわりとしたエンディングでした。

佐川の分家の人たちとの再会も、
根津の長屋の人たちとの再会も、
母のまつや叔母のみえや聡子との再会も、
神戸の小林一三との邂逅もなかったけれど、

安易な視聴者におもねって、
これ見よがしの大団円にしないところが、
劇作家である長田育恵の、
趣味でもあろうし、矜恃でもあるのでしょうね。

その代わり、
図鑑の「謝辞」に登場人物の名を連ねるという演出。

…渋い!!(笑)



ちなみに、ドラマの万太郎は、
在野の立場で理学博士号を授与されてましたが、
これはすこし史実と違います。

たしかに松村任三(徳永教授のモデル)は、
いったん助手の牧野富太郎を非職にしたけれど、
すぐに牧野は東大の講師として復帰したので、
まったくの在野から理学博士になったのではありません。

でも、そのように描いたほうが、
たしかに牧野富太郎っぽい感じはする。

植物図鑑の完成も、東大の人脈ではなく、
日本各地の在野のネットワークを総動員して実現させた。
そのことが最後の「謝辞」へと繋がるわけですね。



東北からムロツヨシと一緒にやってきた鳥羽源蔵も、
そんな在野人脈のひとりだったと思う。

追記1:
ドラマに出てきた鳥羽さんは熊本の理科教師だったようです。
たしかにムロツヨシは東北訛りで、鳥羽さんは九州訛りでしたね。


追記2:
熊本の理科教師のモデルは前原勘次郎かもしれません。


また、
長屋のメンバーとしては、
早稲田教授に出世していた丈之助も参戦しました。

かつて寿恵子から喰らった、
「生涯をかけて作品を完結させよ!」との言葉どおりに、
独力でシェイクスピア全集を完結させていました。

さらには、
「早稲田に演劇博物館を作らせる!」と豪語してましたが、
これは早稲田演劇出身の長田育恵にも関係する話。

崖っぷちを生き抜く人間力を描く/長田育恵
2007年から派遣社員として早稲田の演劇博物館(エンパク)で広報の仕事をしながら、セミナーに通う二重生活を始めました。実はこの演博での経験が私にとってとても面白いものでした。学芸員の方たちが、もう亡くなっている歌舞伎俳優や浅草軽演劇の人たちについて、今も交流がある知人のように話題にするんです(笑)。作品に関してより、どれだけ女好きだったかとか、ダメなところや魅力的なところなど芸術家の人間としての見方に触れる機会になった。私がものを書くとき、人間のどこに惹かれ、何を愛おしく感じ、書くためのモチベーションにするかというベースは、この演博時代に培われたのだと思います。

https://performingarts.jpf.go.jp/J/art_interview/1401/1.html

丈之助のモデルは坪内逍遥ですが、
ちょうど昭和2年に早稲田の教授職を辞して、
翌年にシェークスピア全集を完結させたのですね。



ところで、長田育恵は、
植物図鑑の完成を「寿恵子の生前」に間に合わせました。
そこが最終回の大きな焦点だった。

なぜなら、
史実では間に合っていないから。
実際の牧野富太郎の図鑑完成はもっと遅い。



牧野寿衛は、
大泉に引っ越してわずか3年後、
夫が理学博士になった翌年に亡くなりました。

坪内逍遥がシェークスピア全集を完結させ、
早稲田がそれを記念して「エンパク」を建てたのも、
寿恵子が亡くなったのと同じ昭和3年です。

しかし、
牧野富太郎の植物図鑑は、
それまでには完成しなかったし、
じつはスエコザサの発表でさえも、
ぎりぎりのところで間に合わなかったらしい。

つまり、長田育恵は、
あえて図鑑の完成とスエコザサの発表を史実より早めて、
この物語の結末をデザインしたわけです。

実在した牧野寿衛が、
図鑑の完成をどれほど待ち望んだかは分からないけど、
せめて夫が「牧野博士」と呼ばれるようになっただけで、
それなりには報われたでしょうか?




牧野寿衛が亡くなったのは昭和3年。
夫の図鑑が完成したのは昭和15年。

図鑑の完成が遅れた理由は大きく2つ。

ひとつは矢田部良吉の妨害であり、
もうひとつは松村任三の妨害です。
1890年(明治23年)、矢田部教授により植物学教室の出入りを禁じられ、研究の道を断たれてしまい、『日本植物志図篇』の刊行も6巻で中断してしまう。
1900年(明治33年)から、未完に終わった『日本植物志図篇』の代わりに新しく『大日本植物志』を刊行する。今回は自費ではなく帝大から費用が捻出され、東京の大手書店・出版社であった丸善から刊行されたが、これも松村の妨害により4巻で中断してしまった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/牧野富太郎

しかし、ドラマでは、
田邊教授や徳永教授をそこまでの悪者にはしませんでした。

その代わりに焦点を当てたのが「関東大震災」です。

つまり、
大正12年の震災で原稿が焼けた…という設定に作り変えた。

明治から昭和にいたる近代を舞台とする朝ドラは、
通例なら太平洋戦争の悲劇を描くわけですが、

今年は関東大震災から100年という節目なので、
震災を描くのは必須の前提だったし、
それこそが、このドラマの主題だったといえます。

過去の朝ドラの偉人譚にも言えますが、
たんなるサクセスストーリーにするだけが狙いではなかろうし、
そんな安っぽい話で朝ドラが成立するとも思えない。

なので、今回の脚本は、
そこから逆算する形で構成されている。



長田育恵は、
関東大震災を描いた第25週で、
過去のエピソードを回収しただけでなく、
いわば《震災の諸相》を回収したのだといえます。

家族の住居を「根津」の長屋に置いたまま、
妻の貸座敷だけを「渋谷」と設定したのは、
東京市内と東京市外の被害の差を描き出すためでした。
※実際は住居も貸座敷も渋谷にあったので、あまり被害を受けていません。

次女を上野のデパガに設定したのは、
大きな被害のあった上野周辺の状況を伝えさせるため。

虎鉄を神田の印刷所に勤めさせ、
印刷所の主人を「江戸の火消し」に設定したのは、
神田の住民が火災を食い止めた史実を伝えるためでした。



さらに、
次男を新聞記者と設定したのは、
自警団や陸軍憲兵隊の残虐行為を告発するためでしょう。

ジョン万次郎や、早川逸馬や、
クララローレンスや、旧友の佑一郎をとおして、
争いのない社会と人間の融和を希求したドラマにとって、
この「人災」を告発することも大きな目的だったはず。



そして、
第25週のサブタイトルは「ムラサキカタバミ」でした。

東日本大震災では、
岩井俊二と菅野よう子によって、
復興ソングの「花は咲く」が作られましたが、
おそらく、そのことを念頭に置いたものですよね。

一般の人間でさえ、
「災害の中でも花が咲く」という事実には心打たれるけど、
長田育恵は、それを植物学者の視点で語らせました。

> 株がひとつでも残っちょったら子株を増やせる。
> 何があったっち、かならず季節はめぐる。
> 生きて根を張っちゅうかぎり、花はまた咲く。


この言葉が、
復興への希望になると同時に、
万太郎が困難をこえて図鑑を完成させる決意になり、
視力を失ってなお「八犬伝」を完成させた馬琴にも重なってくる。

すべてフィクションですが、
物語によって《震災の諸相》を描き出す仕掛けだったと思います。



最終話では、
綾の酒造りもついに完成しました!
峰の月を受け継いで「輝峰きほう」としたのですね…。
もちろん、これもフィクションですが。

わたしはちょっと混同してたのだけど、
井上和之助と牧野猶がブリ漁の網元を営んだのは焼津。
それに対して、竹雄と綾が酒造りをしたのは沼津です。

おなじ静岡ではありますが、
焼津から沼津への設定変更にどんな意味があったのか、
考えみても、よく分かりませんでした。
焼津よりも沼津のほうが酒造りが盛んなのかしら?

それから、
新酒の名前はもしや「らんまん」か?!
…とも思ったのですが、ハズレでした。

調べてみたら、
秋田に「美酒爛漫」が実在するのですね(笑)。


最後のシーンで万太郎が見つけたのは、
山中にひっそりと咲くオオキツネノカミソリ。

すると寿恵子の幻が!
キツネだけに?!

故郷でキツネノカミソリを見つけたときには、
祖母がこう言いました。

> 何かを選ぶことは何かを捨てることじゃ。
> ほんなら振りかえりな。


それは祖母のメッセージであると同時に、
牢に見捨ててきた逸馬からのメッセージでもありました。

寿恵子も同じことを伝えようとしたのかもしれません。



Amazonでも牧野の植物図鑑がベストセラーになってる!
普及版でも、けっこう高いのに…(笑)


APG体系版は1巻33000円。


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最終更新日  2023.09.30 23:14:02
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